2025/05/21
カウンセラーの代表的な資格の一つである臨床心理士ですが、臨床心理士の年収がどのくらいなのか、気になっている方もいるのではないでしょうか。
また、「臨床心理士の年収は低い」と聞いて、不安に思っている方もいるかもしれません。
結論からいうと、臨床心理士の年収は決して低くはありません。
今回は、臨床心理士の年収を、臨床心理士全体から職業別、年代別、規模別、地域別、さらにほかの職業との比較まで、詳しくご紹介します。
臨床心理士で年収をアップする方法も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
臨床心理士とは、職業そのものの名前ではなく、資格の名前です。
臨床心理士は、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が認定している民間資格で、カウンセラーの資格としてもっとも有名なうちの一つです。
臨床心理士の資格を持っていることで、医療機関や福祉施設の心理カウンセラーとして働くことができるのはもちろん、スクールカウンセラーやキャリアカウンセラー、児童相談所相談員や法務技官(心理)(矯正心理専門職)といった公務員など、幅広い心理職に就業できるようになります。
なお、特定の心理系資格を求められない心理職もありますが、臨床心理士の資格を持っていることで採用される可能性は高まるでしょう。
臨床心理士の資格を認定する日本臨床心理士資格認定協会は、臨床心理士の専門業務として以下の4つを挙げています。
心理テストや観察面接を通じてクライエントの悩みや問題を明らかにしながら、どのように支援していくのが望ましいか定めること。
カウンセリングを受けるクライエントの特徴に応じた、さまざまな臨床心理学的技法を用いて心の支援を行うこと。
特定の個人に対してだけでなく、地域住民や学校、職場に所属する人々など、コミュニティの心の健康や被害の支援活動も行うこと。
心の支援を行っていく上で、知識や技術を確かなものとするために、臨床心理的調査や研究活動を実施し続けること。
臨床心理士には、単にクライエントにカウンセリングを実施するだけでなく、コミュニティの心の健康に貢献したり、知識や技術を日々研鑽し続けたりすることも求められます。
ここからは、臨床心理士の年収について見ていきましょう。
出典:公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会 臨床心理士とは
臨床心理士の全体の年収 | 459万3,000円 |
---|
臨床心理士全体の年収は、459万3,000円が目安です。
なお、この数値は、厚生労働省編職業分類の「その他の医療・看護・保健の専門的職業」に基づいた数値です。
ちなみに、ひと月にもらえる基本給は318,500円、一年の賞与は770,600円が平均でした。
出典:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
職業 | 年収 |
---|---|
カウンセラー | 459万3,000円 |
スクールカウンセラー | 551万4,000円 |
キャリアカウンセラー | 551万4,000円 |
児童相談所相談員 | 425万8,000円 |
法務技官(心理) (矯正心理専門職) |
551万4,000円 |
臨床心理士は、カウンセラーとして働くのが一般的ですが、職場によって目安となる年収が変わってきます。
スクールカウンセラーは学校で働くカウンセラーで、キャリアカウンセラーは企業で働くカウンセラーです。対して、単に「カウンセラー」というと、医療機関や福祉施設で働くことが一般的となります。スクールカウンセラーおよびキャリアカウンセラーは、厚生労働省編職業分類においてどちらも「カウンセラー(医療・福祉施設を除く)」に分類されています。目安となる年収が同じなのはこのためです。
医療機関や福祉施設で働くカウンセラーは、スクールカウンセラーやキャリアカウンセラーに比べると年収が低いと感じることもあるかもしれません。とはいえ、傾向として病院で働く場合はこの目安よりも高い年収であることが多いです。加えて、特にキャリアカウンセラーは、職場が民間企業なので企業の規模や実績などに年収が大きく左右されます。また、スクールカウンセラーは実際には非常勤であることが多く、正規雇用の機会はあまりないのが実情です。例えば私立学校でスクールカウンセラーとして正規雇用されれば、上表の平均年収かそれ以上を狙える可能性もあります。
「児童相談所相談員」と「法務技官(心理)(矯正心理専門職)」(以下、法務技官といいます。)は、どちらも公務員です。
児童相談所相談員は、その名のとおり児童相談所で、法務技官は、少年鑑別所や少年院、刑事施設などで働くカウンセラーです。
同じ公務員ではありますが、児童相談所相談員は地方公務員試験、法務技官は法務省専門職員(人間科学)採用試験、と別々の試験に合格する必要があります。
法務技官のほうが年収が高いのは、地方公務員より国家公務員のほうが給与が高い傾向があること、少年鑑別所などで働く法務技官は、一般の国家公務員よりも高い給与が適用されることが要因でしょう。
出典:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
年代 | 年収 |
---|---|
~19歳 | 235万6,000円 |
20~24歳 | 313万3,000円 |
25~29歳 | 390万7,000円 |
30~34歳 | 426万5,000円 |
35~39歳 | 466万5,000円 |
40~44歳 | 493万9,000円 |
45~49歳 | 533万3,000円 |
50~54歳 | 555万円 |
55~59歳 | 554万3,000円 |
60~64歳 | 509万3,000円 |
65~69歳 | 427万1,000円 |
70歳~ | 346万5,000円 |
この表を見て分かるとおり、50代までは年収は上がる一方です。しかし、50代後半になってくると徐々に年収が下がる傾向にあります。
これは、多くの企業で「役職定年」といって、管理職に就いていた場合、55歳ごろにその肩書きを外す制度を導入しているためです。
また、役職定年がなくても、転籍などによって給与を下げられてしまうことがあります。
加えて60歳になると「再雇用制度」といって、60歳を定年とはしているものの、希望する社員をその後再雇用する、という制度を採っている企業も多くあります。この場合も、再雇用によって給与が下げられてしまうことが一般的なため、50代をピークに年収は下がり続けてしまうのです。
出典:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
企業規模 | 年収 |
---|---|
10~99人 | 407万6,000円 |
100~999人 | 458万3,000円 |
1,000人以上 | 507万円 |
この表を見ると、企業の規模が大きければ大きいほど、年収は高くなりやすいということが分かります。
例えば病院で働くなら、全国展開している医療法人グループなら年収が高くなりやすいでしょう。
ほかにも、従業員数が多く、業績が成長し続けている民間企業のキャリアカウンセラーでも、高い年収を得やすいと考えられます。
出典:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
都道府県 | 年収 |
---|---|
北海道 | 424万3,000円 |
青森県 | 369万3,000円 |
岩手県 | 313万8,000円 |
宮城県 | 386万8,000円 |
秋田県 | 432万円 |
山形県 | 439万6,000円 |
福島県 | 417万9,000円 |
茨城県 | 526万5,000円 |
栃木県 | 370万8,000円 |
群馬県 | 469万6,000円 |
埼玉県 | 418万円 |
千葉県 | 511万6,000円 |
東京都 | 543万円 |
神奈川県 | 505万9,000円 |
新潟県 | 378万円 |
富山県 | 459万5,000円 |
石川県 | 411万4,000円 |
福井県 | 386万2,000円 |
山梨県 | 221万5,000円 |
長野県 | 417万1,000円 |
岐阜県 | 539万7,000円 |
静岡県 | 484万3,000円 |
愛知県 | 451万円 |
三重県 | 470万7,000円 |
滋賀県 | 441万5,000円 |
京都府 | 391万8,000円 |
大阪府 | 440万7,000円 |
兵庫県 | 445万2,000円 |
奈良県 | 383万4,000円 |
和歌山県 | 399万3,000円 |
鳥取県 | 405万8,000円 |
島根県 | 493万7,000円 |
岡山県 | 529万3,000円 |
広島県 | 437万1,000円 |
山口県 | 466万3,000円 |
徳島県 | 408万6,000円 |
香川県 | 517万8,000円 |
愛媛県 | 384万1,000円 |
高知県 | 415万6,000円 |
福岡県 | 420万2,000円 |
佐賀県 | 368万9,000円 |
長崎県 | 471万8,000円 |
熊本県 | 458万4,000円 |
大分県 | 436万6,000円 |
宮崎県 | 368万2,000円 |
鹿児島県 | 419万円 |
沖縄県 | 398万1,000円 |
この表を見ると、企業の規模が大きければ大きいほど、年収は高くなりやすいということが分かります。
例えば病院で働くなら、全国展開している医療法人グループなら年収が高くなりやすいでしょう。
ほかにも、従業員数が多く、業績が成長し続けている民間企業のキャリアカウンセラーでも、高い年収を得やすいと考えられます。
出典:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
就業形態 | 1時間あたりの賃金 | 年間賞与 |
---|---|---|
一般労働者 | 2,251円 | 77万円 |
短時間労働者 | 1,645円 | 7万8,000円 |
上表の「一般労働者」は正社員を、「短時間労働者」はパート・アルバイトを指します。
一般労働者の賃金は、月の基本給を時給に換算した数値ですが、正社員とパート・アルバイトでは、1時間あたりの賃金も年間賞与も大きく異なることが分かります。
パート・アルバイトは都合に合わせて柔軟な働き方ができる点が大きなメリットですが、給与面を見ると正社員で働いたほうが年収は高くなるといえるでしょう。
出典:厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
職業 | 年収 |
---|---|
職業全体 | 460万円 |
臨床心理士 | 459万3,000円 |
看護師 | 508万2,000円 |
理学療法士、作業療法士 言語聴覚士、視能訓練士 |
432万5,000円 |
介護支援専門員 (ケアマネージャー) |
421万6,000円 |
保育士 | 396万9,000円 |
職業全体の平均年収と、臨床心理士と同じ医療・福祉分野の職業の年収をピックアップして比較しました。
全体と比較しても、臨床心理士の年収はちょうど平均と同じといえます。
そして、看護師よりは年収が低いものの、医療・福祉分野の職業の中でも比較的年収が高いということが分かります。
また、公認心理師との違いについては、厚生労働省の「公認心理師の活動状況等に関する調査」によると、常勤等の月給は20~25万円の方がもっとも多いという結果でした。年収に換算すると、240~300万円+賞与ということになります。
公認心理師は、2017年に誕生した心理職の国家資格です。臨床心理士と並んで、カウンセラーのもっとも有名かつ代表的な資格とされます。
一見、公認心理師は臨床心理士よりも年収が低いように感じられますが、どちらもカウンセラーの代表的な資格であると同時に、職業や年代によって年収に差が出ることを考えると、臨床心理士の年収も公認心理師の年収も同程度と考えて問題ないでしょう。
公認心理師についての同調査では、分野ごとでもっとも多い割合の月給帯についても発表されていたため、以下の表にまとめます。
分野 | もっとも多い割合の月給 |
---|---|
保健医療および福祉 | 20~25万円 |
教育 | 20万円未満 |
産業・労働 | 20万円未満 20~25万円 30~35万円 |
司法・犯罪 | 30~35万円 |
臨床心理士と公認心理師の年収が同程度と考えると、やはり規模の大きい企業のキャリアカウンセラーや、国家公務員の法務技官(心理)(矯正心理専門職)は年収が高くなりやすいといえるでしょう。
[出典]
国税庁 令和5年分 民間給与実態統計調査
厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査
厚生労働省 公認心理師の活動状況等に関する調査
臨床心理士になるには、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が年に1回実施する資格審査に合格する必要があります。
ですが、誰でも受験できるわけではなく、以下いずれかを満たして受験資格を得ることから始めなければなりません。
一般的なルートは、1つ目の「第1種指定大学院の修了」です。
日本臨床心理士資格認定協会が定める第1種指定大学院などについては、「指定大学院臨床心理学専攻(コース)一覧」をご覧ください。
受験資格を得たらいよいよ受験です。
資格審査のスケジュールについて、以下の表にまとめました。
スケジュール | 時期 |
---|---|
資格審査申請書類 請求期間 | 7月~8月初週ごろ |
受験申込 受付期間 | 7月~8月末 |
筆記試験(一次試験) | 10月 |
口述面接試験(二次試験) | 11月 |
合格発表 | 12月 |
なお、詳しい日程については年によって変わる可能性があります。
最新の日程や詳しい手順については、以下をご覧ください。
公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会 臨床心理士になるには—資格審査の実施
「臨床心理士の年収は低い」と聞いたことがあり、不安に思っている方もいるのではないでしょうか?
給与をもらっている人全体の平均年収が約460万円なのに対し、カウンセラーの平均年収は約459万円です。ちょうど平均に位置しているので、決して「臨床心理士の年収は低い」とはいえません。
では、なぜ「臨床心理士の年収は低い」といわれることがあるのでしょうか?
ここでは、「臨床心理士の年収は低い」といわれる理由を深掘りして解説します。
職業別や規模別の項目で見てきたように、臨床心理士の年収は職業や企業規模によって大きく異なります。
規模の大きい病院や企業でカウンセラーとして働く場合や、法務技官(心理)(矯正心理専門職)として働く場合、年収は高い傾向ですが、一方で小規模の福祉施設や企業では平均年収よりも低い年収にとどまりがちです。
高い年収をもらえる企業や組織に就職・転職できればいいですが、カウンセラーとして正雇用で就業するとなると、難易度も高くなります。
このように、勤め先によって給与が大きく異なることが、「臨床心理士の年収は低い」といわれる要因になっていると考えられます。
上記で紹介してきた臨床心理士の年収は、一般労働者、すなわち正社員に限った年収です。
実情として、臨床心理士は非常勤で、複数の企業や施設を掛け持ちして働く場合が多くなっています。
非常勤で働くケースが特に多いのがスクールカウンセラーです。スクールカウンセラーは、私立学校で正規雇用されれば安定した年収を得やすいものの、実際には2~3校を掛け持ちして、週数日ずつ各校で勤める方が多い傾向があります。
パート・アルバイトなどの短時間労働者の平均時給は1,645円とお伝えしましたが、これを正社員よりも少ない時間で年収に換算すると、その数字は自然と全体の平均年収を下回ってしまいます。
したがって、「臨床心理士の年収は低い」といわれてしまうのでしょう。
とはいえ、必ずしも非常勤の臨床心理士の時給がどの職場でも低いわけではありません。
特にスクールカウンセラーやキャリアカウンセラー、司法・法律分野で非常勤として就業する場合、時給が5,000円を超えるという好待遇の場合が少なくないのです。
非常勤だから年収が低くなる、ということではなく、非常勤でも職業や勤め先によっては平均以上の年収を狙えることは、覚えておきましょう。
せっかく臨床心理士の資格を取って、カウンセラーやカウンセリングに関わる仕事をするなら、高い年収を目指したいでしょう。
臨床心理士は、年収1,000万円以上も夢ではありません。
ここでは、臨床心理士として働く上で、年収をアップする具体的な方法を解説します。
資格取得やスキルアップは、年収をアップする近道です。
例えばカウンセラーとして働いている場合、臨床心理士だけでなく公認心理師の資格も取得すると、国家資格も持つことになるため、よりカウンセラーとして信頼を得やすくなるだけでなく、転職の際も有利になるでしょう。
ほかにもキャリアカウンセラーとして働いている場合、関連資格である国家資格「キャリアコンサルタント」を取得することで、より幅広い業務を行えるほか資格手当をもらえる可能性もあります。
スキルアップも大切です。医療現場や学校、企業など、その分野での専門性を高め続けることで、知識や技術、実績を積んで年収アップを狙えます。
臨床心理士は、非常勤だと年収が低くなりがちで、福利厚生にもあまり期待できません。
しかし、公務員として正規雇用されれば、収入が安定する上に福利厚生も手厚くなります。
特に、少年鑑別所や少年院、刑事施設などで働く法務技官(心理)(矯正心理専門職)は、公務員の心理職の中でも給与が高い仕事なので、カウンセラーとして高い年収を得たい方はチャレンジするのもおすすめです。
大学教授になる場合は大学、心理学者になる場合は研究機関で勤務することになります。
このどちらも給与は高く、権威性の高い仕事であるため、年収1,000万円を超えることも可能です。
大学教授や心理学者になるには、まず大学院での博士号取得が第一歩となります。そこからさらに実績を積んだり、研究を重ねて論文発表したりと長い道のりが必要になるため、簡単に就ける職業ではありません。
しかし、大学教授や心理学者になれば、臨床心理士としてトップレベルの年収を得られます。
狭き門、困難な道のりではありますが、研究が好きな方は目指してみてはいかがでしょうか。
独立開業とは、どこの企業や組織にも属さず、カウンセラーとして開業することです。
ここまで、医療機関や福祉施設、学校、企業、公務員など、さまざまな場所のカウンセラーについて解説してきましたが、独立開業をすると給与は組織からもらうのではなく、自らがクライエントから直接報酬をもらうことになります。
そのため、クライエントが多ければ多いほど、年収が高くなります。
独立開業は、大学教授や心理学者と並んで年収1,000万円以上を目指せる道です。
土地を借りてカウンセリングルームを開くほか、Zoomなどのオンラインのみでカウンセリングを行う方法もあります。
自力でクライエントを集めなければならないため、ブランドイメージや集客力が求められるなどほかの臨床心理士よりも必要なスキルが多くなりますが、実力や実績が給与につながりやすいためやりがいをより感じられるでしょう。
臨床心理士の平均年収は約459万円ですが、職業や年代、職場の規模、地域によって臨床心理士の年収は大きく変わってくることが分かりました。
臨床心理士として年収をアップしていくには、資格取得やスキルアップをしたり、年収が高くなりやすい職場に就職したり、独立開業を目指したりするとよいでしょう。
立正大学 心理学部では、臨床心理士になるために欠かせない心理学を基礎から学べます。
また、立正大学大学院 心理学研究科 臨床心理学専攻は、臨床心理士資格の第1種指定大学院に認定されており、修了すると臨床心理士資格審査の受験資格を得ることができます。
「臨床心理士に興味がある」「臨床心理士になりたい」と考えている方は、以下からぜひ立正大学で学べることについても調べてみてくださいね。