仏教と仏教美術

立正大学大学院文学研究科仏教学専攻
立正大学仏教学部仏教学科
安田治樹教授

専攻は仏教美術史、東洋美術史(インド古代)。成城大学文芸学部芸術学科卒、立正大学大学院文学研究科で博士(文学)を取得。財団法人根津美術館学芸員などを経て現職に。著書に『図説ブッダ』(共著)、論文に「中国の仏伝美術と金棺出現図」、「ガンダーラの彫像」など。

研究内容

仏教美術については、審美的・造形的な側面からの取り組みもありますが、私は仏教史や仏教の思想的な観点から、仏教美術の研究に取り組んでいます。仏教美術は、たいてい宗教的な説話がその下敷きとなっており、作品を文化的、歴史的に正しく理解するためには、仏教史や思想的な観点の知識が欠かせません。
また、美術品をつぶさに見ることで、仏教美術の場合ですと、インド、西アジア、ギリシアなどの文化の交流の様相や、互いにどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることができます。

研究の魅力

燃燈仏授記 ガンダーラ出土 インド博物館蔵
撮影:安田治樹

仏教美術との出会いは、学生の頃の授業で知った燃燈仏授記という物語を表現した燃燈仏授記図でした。燃燈仏授記とは、釈迦菩薩(前世の釈迦)がバラモンの青年修行者メーガであった時,燃燈仏から来世において悟りを開き釈迦仏となるであろうとの授記(予言)を与えられた説話です。
そのときまで仏教のことはあまり知らなかったのですが、その思想や髪の毛を敷いて仏に踏ませるエピソード、そしてそれを具体的に表現した図像にとても衝撃を受けました。

大学の指導教授がインド学仏教学から仏教美術史を幅広く扱う研究者であったこともあり、美術品の背景にある宗教的思想が如何に重要かを学びました。宗教的思想を理解することで、その美術品の本質や核心を明らかにしていくことはとても魅力的です。

※燃燈仏授記の概略
「ある日,都に燃燈仏が現れることを知ったメーガは是非燃燈仏に会って花を捧げたいと思い立つ。しかし,町の花はすでに国王によって集められていた。その時,彼は脇に水瓶を抱え7本の蓮華を持つゴーピーという少女に出会う。彼女はなかなか花を譲ってくれないが,メーガは懇願の末に有金すべてを投じてようやく5本の蓮華を得た。国王その他の人々が燃燈仏に散華するが,メーガが捧げた5本の蓮華のみが空中にとどまり燃燈仏の頭光を飾った。更にメーガは,燃燈仏の足が泥水で汚れないように,着ていた衣を地面に広げ,その上に自らの髪を解いて平伏した。燃燈仏はメーガに対し,来世に仏陀となるであろうとの予言を授けた。メーガは喜びのあまり躍昇した。」(安田治樹/「ガンダーラの燃燈仏授記本生図」/『仏教藝術』157号)

研究の未来

仏教美術の初期の様相については、多くの課題が山積しています。例えば、仏像の起源については、誰もが納得するような結論は未だ導かれてはいません。仏像発祥の地はガンダーラであるとの説がこれまでは有力でしたが、最近はこれを覆すかもしれない史料が出てきて、過去の研究成果の検証作業が行われている状況です。
また、大乗経典の法華経に基づく造形化についても、法華経成立から200年間頃までは美術品は知られていません。意図的に造形化が行われていなかったのか、それとも見つかっていないだけなのか、もし作っていたとしたらどのような作品だったのか。仏教美術の初期の様相については、未だ答えのない疑問が数多く残っています。

興味を持たれた方へ

仏教美術は様々な学問分野からアプローチされています。大学で仏教美術を学ぼうとする時、仏教学や芸術学の領域だけではなく、哲学や史学に課程をおいている大学もあります。同じ仏教美術を題材にしても、各学問分野では知識や取り組み方が異なってきます。大学院ではそのような様々なバックグラウンドをもった学究の徒同士で、互いに刺激し合えることが期待されます。教える、教わるという立場を超えた学問の楽しみがそこにはあると思います。

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