日蓮聖人御伝木版画
26.本尊図顕 26/33 [翻刻]
本尊図顕
佐渡の国雑太郡一の谷と申すは山幽にして巌峙ち松籟
颯々の楽をかなでゝ渓流淙々の闇を絶たす。文永九年の卯月
青葉若葉の翠滴る頃此国の守護所よりの下知として聖人は
塚原の三昧堂を出てて此にわたましあり静に観念の眼を開
いてその大理想を具像化せんとて翌る年の同じ月に如来滅後
五五百歳始観心本尊鈔の述作あり越えて七月八日更に妙法
曼荼羅を図顕して本門本尊の尊容を示現し依心の帰依
處を明にし給ふ。即ち説きたまはくここに日蓮如何なる不思議
にてや候らん龍樹天親等天台妙楽等たにも顕し給はさる大曼荼
羅を末法に入て二百余年の比はしめて法華弘通の旗印として
顕し奉るなり。これ全く日蓮か自作にあらす。多宝塔中大牟尼
世尊分身の諸仏摺形木なる本尊なりされは首題の五字は中央
にかかり四大天王は宝塔の四方に座し釈迦多宝本化の四菩薩肩を
並へ普賢文殊等舎利弗目蓮等坐を屈し日天月天六天の魔王
龍王阿修羅其外不動愛染は南北の二方に陣を取り悪逆の達多
悪痴の龍女一座を張り三千世界の人の寿命を奪ふ悪鬼たる
鬼子母神十羅刹女等加え日本国の守護神たる天照大神八幡
大菩薩天神七代地神五代の神々総して大小の神祇等體の神
つらなる此等の仏菩薩大聖等総して序品列坐の二界八番の
雑衆等一人も漏れす此御本尊の中に住し給ひ妙法五字の
光明に照らされて本有の尊形となると是れ即ち久遠本仏
の実體にして悉皆成仏の本相なり之を佐渡
始顕の本尊と申す。
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