日蓮聖人御伝木版画
16.松葉ヶ谷召捕 16/33 [翻刻]



  松葉ヶ谷召捕

聖人も今年ハ五十路にならせ給へる其文永八年
秋も最中を過きし長月十二日日も暮れて
彼は誰時松葉ヶ谷の庵室に端居し給へる折
しも俄に大地を踏ミ轟かす人馬の音此手の大将
は平ノ左衛門尉頼綱従ふ兵数百騎胴丸着けて頭に
は烏帽子を戴き十重二十重と庵室を取囲み雄た
けひの聲烈しく「悪法師日蓮を召捕りに参つたるわ」
と呼はゝる。聖人心に思ふやう「此日頃月頃思ひ設けたる
ハこれなり。法華経のために命を棄つるは砂に金を
かへ石に珠を賈へるか如し」ときつとなりて兵ともを
見渡す敵方に少輔房なるもの走りよりて聖人の懐に
せる法華経第五の巻を取りて面をさん/\に打擲
す。他の巻々ハ荒れ狂ふ兵ども或ハ踏みにちり或は
引きちきりなとす「あら面白や平ノ左衛門尉か物に
狂ふさまを見よ唯今こそ日本国の柱を倒す
なれ」と聖人は大音聲にて呼はゝり給へは兵
とも顔見合せてしはし言葉なし。聖人は御聲
烈しく平ノ左衛門尉を打伏し給へと多勢を力
に聴かはこそ聖人取へて高手小手に縛め凱歌あ
けて引つ立て行くこそ無残なれ。


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