日蓮聖人御伝木版画
2.清澄修学 02/33 [翻刻]



  清澄修学

小湊より程遠からぬところに真言密宗の霊場あり。
山路崎嶇として松杉暗く木下蔭に置く道芝の露
も繁し山は千光寺は清澄と稱へて宝亀二年
不思議律師の開基にして慈覚大師の中興と云ひ
伝ふ道善坊といへる此寺の住持は行澄まして道徳
堅固の誉遠近に聞えたれは貫名次郎重忠は
一子善日麿を伴ひて登山し我子をは御弟子に
して給はれと懇に請ひ求めぬ道善坊と見かう見て
よき稚子そ十二にしては利発けなり。今日より
して名を薬王麿と改め得させんとそのまゝ此山に
留め置き我子の如くいたはりて手習ひ文読むこと
を教へけるに一を聞いて十をさとる発明さ道善坊か
舌を巻くはかりか一山の誰彼いつれも手を拍ちて
ほめそやさゝるものとてハなかりき。天福元年五月十二日
杜鵑啼く梅雨霽れの頃入山してより程なく梢にハ
油蝉の声しきりに峯に音つれる。涼風は御堂の風鐸
を鳴らしやかて木の葉色つきて初時雨はら/\とこほ
るれハ満山蕭条として勤行の鐘も氷るめり。春と
過き秋と暮れて歳華流るゝ如く薬王麿ハ背丈
の延ひるとゝもに修学の功空しからす学業も
驚くはかり進ミゆきぬ


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