日蓮聖人御伝木版画
4.虚空蔵祈願 04/33 [翻刻]



  虚空蔵祈願
伝へ聞く虚空蔵菩薩は智慧慈悲の広大無辺なる
こと恰も虚空を庫蔵にするか如く頭に五智の宝冠を
戴き右手に智慧の宝剣を把り左手に福徳の蓮華
を持ち如意宝珠を其上に載せ給ふ。されは一切衆生に
智慧を授る大菩薩におはしますなりと幸なるかな。
清澄山の本尊は此大菩薩にして法堂には其尊像を安置
し奉れりいてや此大菩薩に対し奉りてわれを日本
第一の智者となし給はんことを祈願せはやと聖人
は御堂に籠りて祈願を凝すこと三七日御堂の側に清澄
の水を湛へたる池の面に白日明星の影を映せるこそまさ
しく竒端なるへけれといよ/\丹誠怠らす満願の暁
夢現を分たさるに銀髪の老人出現して大宝珠を授け給
へると覚へてふと我と我に立返りぬ。こは有難し辱けなし
我か本願の成就疑ふへからすと恭しく礼拝して御堂の
きざハしを下ること三四級俄に胸元苦しく思はす
夥しく血を吐いて其まゝそこに倒れ伏す。寺内の
誰彼慌しく駈け寄りて擔き帰れるに程なく本復
して心地すか/\しくこれそまさしく凡体不浄
の血を吐きつくしたると思はれて今に凡血の笹を
其ほとりに残しぬ。


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