日蓮聖人御伝木版画
31.蒙古襲来 31/33 [翻刻]



  蒙古襲来

亜細亜大陸を席捲し馬蹄欧羅巴を蹂躙したる
蒙古は新勝の餘威を假りて文永十一年十月戦艦九
百餘艘海を蔽うて壱岐対馬を侵しぬ他国侵逼難は
目前に現はれて上下のあはてふためき譬へんに物
なし。敵兵博多に上陸し箱崎の宮も兵燹の焼く所
となりしか。大風忽ち起りて敵艦枯葉と砕けさしも一
時を震駭せしめたる外冠ハ一たひ已みたるも弘安四年
五月更に十餘萬の大兵は舳艫相啣める夥しき戦艦に乗
して殺到しぬ。亀山上皇は親ら石清水八幡宮に祈請し
給ひ又御身を以て国難に殉せんとの宸筆の御願文を伊
勢大廟に上り給へり。海内鼎の沸くか如く人心暫くも
安きことなし。聖人のち大曼荼羅を図顕して蒙古を調伏
し護国の精神を発揚し又弟子檀那に対して小蒙古の人
大日本に寄せ来るに就いての誡を垂れぬ鎮西及諸国よ
り派遣せる将士は祖国難のために此を先途と防戦す
ること二月餘り虜軍は肥前の鷹島に授りて
さうなくは上陸せさりしか。偶々閏七月一日の夜颶風
發りて海水波を揚くること十丈虜船覆没するも
の算なく我軍之に乗して残賊を掩殺し一夜のう
ちに其姿を消したるこそまことに尊くも又
かしこけれ。


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