日蓮聖人御伝木版画
23.塚原問答 23/33 [翻刻]
塚原問答
文永八年十月二十八日聖人は佐渡か島に着船ありて
十一月一日塚原となん呼へる山中の墓原に立てる
一間四面の小やかなる堂に棄て置かれぬ。庇に月の
光を漏らし四壁の隙間もる風冷かに僅に敷皮しき
蓑着て夜を明かし日を暮らす。庭には大雪積りて消
えす音つるものとてハ氷の如き風のミなりき。年立ち
返れとも春信未た通せす。此国の念仏者生喩房印
性房慈道房等阿弥陀仏の大怨敵日蓮房こさんなれ
いて物見せてくれんすと越後越中出羽奥州信濃等
の法師原を駆り催し其勢数百人堂前の大庭山野に
聚りて口々に罵り騒くこと喧しともかしまし。聖人之を
制して云ふ悪口はよしなし。問答こそ然るへけれと固
より辺鄙の法師ともなれは言ふとこそ或は自語
相違し或ハ妄言取るに足らす。聖人一々之を論破
して餘すところなく偏に利剣をもて爪を割き
大風の草を吹き魔かすか如し。衆徒の或ものハ減
らす口叩き、或ものは口を閉ちて色を失ひ、或ものは
即座に袈裟平念珠を打棄てゝ念仏申すまし
と誓言立つるもあり。散々になつて打退けは暴風一
過雨後の月明かなるに似たり。
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