日蓮聖人御伝木版画
8.辻説法 08/33 [翻刻]
辻説法
鎌倉辻町の東なる小町の往還にたちて
法のために国のために衆生済度のためニ大
獅子吼せる聖人の威容はたとへば千仞の巌
のそばだつが如かりき。法華経は月のごとく
大海大山のごとく大王の如く。この経以外の諸
経はあたかも星の如く江河のごとく塵のごと
く丘陵のごとし。これ日蓮の私議にあらず
如来の金言なり。十方諸仏の評定なり。この
経は一切経にすくれたり。地走るものゝ王なり。
獅子王のごとく空飛ぶものゝ王なり。鷲のごと
し。南無阿弥陀仏経等は雉のごとく兔の如く
鷲に提へられては涙を流し獅子に責められ
ては腸を断つ。念仏者律僧禅僧真言師等
もまたみなかくのごとし。日蓮は迷へる衆生を
覚まし真の経を伝へむがためにこの日本
国に生れたり。言々肺腑より迸りて聲は雷
霆のごとくひゞく。罵詈は怒濤とよせて瓦礫は
猛雨とふりそゝぐ。聖人些とも騒がずうてば
応じ、とへば対ふ。やがて凱顕とひゝく。南無妙法
蓮華経の題目かくして妙法の光は罵詈瓦
礫のうちより燦然として十方世界にか
がやき渡りぬ。
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