モラりすレポート

vol.31 地理学的な思考で人と社会をケア

2013/12/20

あなたが思う伸びそうな企業とは?

一概には言えませんが、どれも一理あり。伸びる企業はさまざまな変化に適応できる柔軟性をもっていそうです。

地図を読み解くことで、地域や社会の
様々な現象や問題にアプローチする。

地球環境科学部 地理学科 鈴木厚志 教授

地球環境科学部 地理学科
鈴木厚志 教授

立正大学大学院文学研究科博士後期課程修了。地理学を専門とし、現職のほか、日本地理学会、日本地図学会、日本地球惑星科学連合で研究活動を行い、研究発表のかたわら、学会の運営活動にも携わっている。日本地理学会では、現在理事・資格専門委員会委員長、日本地図学会では、2012年度まで常任委員・集会委員長を務める。また、国土交通省国土地理院の電子国土地形図のあり方検討委員等を2013年7月まで務めた。論文に『地理的地図学からGISへ:ワシントン大学地理学教室における地理学・GIS教育』『地図で見る伊豆のすがた』などがあり、『地理情報科学事典』(朝倉書店)などの編著書がある。

地図を読むと、見慣れた町の景色の中にも 新しい発見があるかもしれません。

スマートフォンやタブレットの普及によって
地図を手軽に持ち歩くことができるようになり、
私たちが地図に親しむ機会は増えたかもしれません。
けれど、今よりもっと深く地図を読み解けば
自分の住む町の歴史や人々の暮らしの様子など
様々な情報を手に入れることができます。
この機会にもう一度、地図を見直してみませんか?
地図を地理学の第一言語として扱う「地理地図学」を学び、
地理情報システム(GIS)を使った教育にも力を注ぐ鈴木先生
にお話を伺いました。

地理学的思考から学ぶことは?

Q1. ご研究テーマの「地理情報システムによる空間データの視覚化」とは?

A.地理情報システム(GIS)とは、コンピュータに経度・緯度といった位置情報を与えて地図化し、様々な地理情報を扱うシステムです。平面だけではなく、高さ(標高)の情報を与えることで、3次元的な表現をすることも可能です。GISの代表的なものが、皆さんもよくご存じのカーナビゲーションですが、このシステムを使えば、たとえば埼玉県の地形情報を地図化し、さらに性別や年齢別の人口分布といった情報を付加することで、どのような特徴の地形にどのような人々が暮らしているか、といったことを視覚化することができます。そして、視覚化した情報を分析することによって、新しい考えや発見を導き出す研究を行っています。本学では1998年、熊谷キャンパスにGISに必要な機器を整備し、地理学を学ぶ学生が身に付けるべき技能という位置づけで、カリキュラムがスタートしました。

制作に携わった本【共訳書の『GISで環境学習』(古今書院)、監修として『都道府県別日本地理』(ポプラ社)、編集幹事として『地理情報科学事典』(朝倉書店)】 制作に携わった本【共訳書の『GISで環境学習』(古今書院)、監修として『都道府県別日本地理』(ポプラ社)、
                          編集幹事として『地理情報科学事典』(朝倉書店)】

Q2. ご研究テーマの「地理地図学」とは?

A.まず「地図学」とは、球体の地球を平面に表現する技術など、地図そのものを学ぶ学問ですが、「地理地図学」とは、地図を地理学の第一言語または1つの道具として捉えた研究で、20世紀前半にアメリカの主要な地理学教室で定着しました。ある地図を見て、たとえばこの一帯はどのような地形であり、どのような人々がどのような地域に住み、どのような暮らしを営んでいるか、といったことを読み取る“読図”、つまり地図を文章に置き換えることは地理地図学の一つの要素といえるでしょう。そして、アメリカでは1980年代から、その後1990年代に入って日本でも、前述のように地理地図学はデジタル化されて進展していきます。

Q3. 現在の主なご担当講義についてお聞かせください。

「地理情報システム論および実習」の授業で学生が作成した資料 「地理情報システム論および実習」の授業で学生が作成した資料

A.「地理情報科学の基礎」では、地理情報システム(GIS)および関連する様々なトピックを取り上げます。具体的には、GISの利用の発達、データの構造や種類、印刷地図とデジタル地図の分析、GISの可能性、地図のデジタル化に伴う経済効果、といった内容です。一方、「地理情報システム論および実習」は、実際にGISを使って地図作成を行う実習です。前半は、地形図、土地利用図、統計地図などを作成し、後半はその応用として、分析や印刷地図をデジタル化する実習を行います。地図作成そのものは難しい作業ではありませんが、そこから得た情報をどのように分析し、どのような資料を作成するか、といった点が重要な学びであり、この一連の行程を経験することで、地理情報システムの理解がいっそう深まると考えています。

Q4. 「地理空間表現研究室」の活動内容をお教えください。

A.毎年10~15名の3、4年次生のセミナー生を受け入れ、3年次の1月頃から卒業論文の制作を開始します。主に「都市の土地利用」「生活空間」といったテーマで、地理情報システムを使ってフィールドで自らが得た情報をデジタルに置き換え、分析する研究です。目的と仮説の設定、データの取得、データの加工・分析、地理情報システムによる地図化と考察、という一連のプロセスを踏まえたフィールドワークや卒論の指導を行っています。セミナー生の中には、地域調査士やGIS学術士などの資格取得を目指しているものも多く、目的意識を持って取り組んでいます。卒業生の中には、教員志望であったことから、小学校高学年で使う地域の地図帳を自らGISで作成し、その地図帳を使った指導案まで作成するユニークな卒論をまとめた女子学生もいました。

Q5. 学生の皆さんには、地理学をどのように学んでほしいですか?

A.地理学は、たとえば“地域の高齢化”や“耕作放棄された農地”といった現象だけを見るのではなく、“○○地域の高齢化”や“○○地域の耕作放棄”というように、位置情報を踏まえて考察する学問です。“港区の高齢化”と“奥多摩の高齢化”を1つにまとめて“東京の高齢化”と捉えてしまっては、高齢化という現象の背景にある、それぞれの地域の現状や問題を知ることはできません。地理学の持つ“地域の視点や空間からの視点”は、物事の有効的な捉え方であり、学生には様々な事象を1つの側面から捉えるのではなく、多面的な捉え方ができるようになってほしいと考えています。また、資料や人から得た情報だけに頼るのではなく、自ら地域の情報を取得・確認し、その内容の持つ意味を解釈したうえで、問題解決の処方箋が書けるようになってほしいと思います。さらに、今は手軽に多くの情報を入手できる時代ですが、それゆえ、その情報を読み解き、自分に必要な情報かどうか取捨選択するセンスを磨くことも必要でしょう。

Q6.立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」とご専門分野の関連は?

A.Q5.で述べた通り、地理学では、物事を単なる現象として捉えるのではなく、常に位置情報を付与して検証します。そして、その地域の地形、気候、人口、交通、産業、歴史など、複眼的な視点で物事を捉えます。さらに、地理情報システムによってそれらを視覚化し、国や地域それぞれの社会変動を意識しながら考察することで、社会で起こる様々な問題や現象を、より深く理解することができるのではないか、と考えています。

 

ページの先頭へ戻る