モラりすレポート

vol.27歴史からの学びで人と社会をケア

2013/07/19

博物館や美術館で働く

博物館や美術館のキュレーター(学芸員)は、①~③のすべてを行います。

文化遺産(資料)の収集・調査研究・展示から
歴史を学び、いまを問い直す。

阪田正一 教授

文学部 史学科
阪田正一 教授

立正大学大学院文学研究科(史学専攻)修士課程修了。千葉県立関宿城博物館長を経て、2008年より現職。専門は歴史時代の仏教に関する遺跡・遺物の研究。講義では「博物館学」をはじめとする博物館学芸員課程科目を担当している。『江戸時代諸書にみる題目板碑への関心』『立正大学における博物館学芸員課程の歴史』等の論文や、著書に『題目板碑とその周辺』(雄山閣)がある。

博物館は、皆さんの知的好奇心を
触発し、刺激してくれる格好の場所です。

文化遺産とは、先人たちの暮らしの中にあったもので、
そこから記録に残されていない歴史が見えたり
昔の人々の生き方や考え方を知ることができます。
皆さんも、もっと気軽に博物館に出かけて、
文化遺産に親しんでみませんか?
自分の暮らす町や、旅行先の土地の小さな博物館に、
心躍る新しい発見があるかもしれません。
「博物館学」をご担当されている阪田先生に、
あまり知られていない学芸員の仕事や博物館の楽しみ方、
私たちは文化遺産から何を学べるかなど、お話をお聞きしました。

文化遺産から学ぶこととは?

Q1. 先生が担当されている「博物館学」はどのような学問ですか?

A.昭和26年に定められた「博物館法」では、博物館は貴重な文化遺産が散逸したり紛失したりすることのないよう、「資料を収集・保管する機能を持つ」とされています。加えて、資料の調査・研究および一般に向けて展示公開を行う機能も含まれます。このことから「博物館学」とは、博物館の機能である「資料の収集・保管、調査・研究、展示公開」について研究する学問と位置づけられるのではないかと考えます。文部科学省では、博物館の学芸員の資格取得のため、大学で開講する科目を定めています。資料の収集と保管については「博物館資料保存論」、資料の調査と研究については「博物館資料論」「博物館情報メディア論」、展示公開については「博物館展示論」といった科目で学びます。このほか、皆さんが歴史から学んでもらうために博物館は何をするのか考える「博物館教育論」「生涯学習論」、そして一人でも多くの方に情報を提供する(=集客を増やすなど)ための「博物館経営論」といった科目も学習します。

Q2. 博物館の学芸員に必要な素養は?

博物館の実務を体験する「館務実習」で、火起こし体験をする学生たち 博物館の実務を体験する「館務実習」で、火起こし体験をする学生たち

A.博物館といっても、鉱物、植物、動物に始まり人間の歴史まで総合的に扱う規模の大きな博物館から、特定の分野を専門的に扱う専門博物館など多様で、学芸員は各博物館の方針にのっとって資料の収集や展示等を行います。そのためにまず、専門知識を身につけ、“物を見る目”を養わなければなりません。資料に関する情報収集のため、地域社会とのコミュニケーションも必要です。資料の修復を専門業者に依頼する際には、修復に関する基本的な知識も備えておかなければならないでしょう。展示法についても、博物館の構造から展示品へのライティングの方法など考慮しなければならないことは多々あります。また近年、特に公立の博物館は経済状態が厳しく、運営資金の調達や、博物館を広く宣伝することも大事な仕事です。こういった幅広い素養を身につけるため、学芸員を目指す学生は、大学で前述した科目を学びます。特に4年次の「館務実習」では、実際に博物館で資料を扱ったり、一般市民向けの講座や体験教室を担当するなど、博物館の実務を事前に学習します。館務実習は、座学で学んだことを実践できる有意義なカリキュラムです。

Q3. 学生の皆さんが大学で「博物館学」を学ぶ意義は?

A. 生涯学習社会といわれる現在、いつでも、だれでも、どこでも学べる受け皿として博物館が機能しているといえます。社会からも博物館に向けられる期待も高いといえます。博物館は学習の場であるとともにレクリエーションの場でもあるため良質な展示が求められています。そのため学芸員の仕事は多岐にわたる魅力ある職種であり、日本の歴史と文化の担い手となる学芸員を目指すうえで「博物館学」を学ぶことは意義深いと思います。

Q4. 博物館の楽しみ方を教えてください。

A.国や地方自治体、財団法人や企業所有など博物館の設置形態はさまざまですが、実は私たちのまわりには博物館がたくさんあります。首都圏の大規模な博物館だけではなく、地域に根ざした郷土資料館などでも、そこでしか見ることのできない興味深い資料の展示が行われています。まずは近所の博物館に足を運んでみてください。自分の暮らす町の歴史や文化を知れば、よりいっそう町に愛着や興味がわくでしょう。また、たとえば出張や旅行先でも、地域の博物館に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。その土地の歴史や文化にふれ、自分の暮らす町と比べてみたりすることで、新しい発見があるかもしれません。文化遺産は本来、先人たちの暮らしの中にあったものです。昔の人々がどのような暮らしの中で何を考え生きていたか、思いめぐらせるひとときは楽しく、知的好奇心を満たしてくれる時間だと思います。

Q5. ご専門の研究についてお聞かせください。

著書『題目板碑とその周辺』(雄山閣) 著書『題目板碑とその周辺』(雄山閣)

A.考古学の中でも特に、古代から近世における仏教に関係する遺跡・遺物の調査研究を専門としています。当時の社会の仏教の広がり方や、人々の死に対する考え方に関心があり、板碑(塔婆)の調査研究等を行っています。板碑とは、死者の供養のために造立された供養塔で、板状に加工した石に梵字を掘ったものです。通常は専門の職人が掘りますが、ある調査で、日蓮宗の僧侶であった「日源」の名の入った板碑が見つかりました。さまざまな文献にあたって調べていくと、これは日源自身が掘った題目板碑と分かり、僧侶も板碑の製作にかかわっていたことが確認できたことは大きな収穫でした。このように、資料の調査・研究によって、記録に残されていない歴史を読み解くことが、考古学の醍醐味ではないかと思います。

Q6.立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」とご専門分野の関連は?

A.皆さんもご存じの通り、2011年の東日本大震災では、大津波が東北地方に多大な被害をもたらしました。この地方は昔からたびたび大津波に襲われていますが、昭和8年に起きた大津波のあと、高地移転した三陸町綾里の白浜という集落は、このたびの津波では大きな被害がありませんでした。ですから、この集落を手本として大津波によって受けた被害や、その後の復興の様子が分かる資料を収集し、展示公開するということが博物館では行うことができます。こういった活動は、博物館だからこそできることです。私たちは歴史に学び、今を問い直し、未来を生きていきます。さまざまな資料を通して、人々に史実を知ってもらうことのできる博物館を利用することは、人や社会をケアするケアロジーではないでしょうか。

 

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