モラりすレポート

vol.26 法律という“薬”で人と社会をケア

2013/06/21

隣家から伸びてきたバラの花。勝手に切ってしまって良いの?

現在の日本の民法では、勝手に切ることはできません。

人々が“あたりまえの生活”を営むために
“あたりまえ”の裏にあるルールを考察する。

舟橋 哲 教授

法学部長
舟橋 哲 教授

早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士)、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程民事法学専攻単位取得退学。尚美学園大学専任講師、杏林大学准教授を経て2007年より立正大学法学部法学科准教授、2010年より現職。共著書に『マンション法』(有斐閣)、『公私領域のガバナンス』(東海大学出版会)などがある。

もし今、あなたと隣人との間に、いさかいが起きたり、
親族の揉め事に巻き込まれたら、どう対処しますか?

民法は、人々が共生している社会で、誰もが互いに調整し合って “あたりまえの生活”を営めるように制定されていますが、生き方や価値観が多様化する現代社会では、起こり得るいさかいや揉め事も多種多様です。
法律の専門家に限らず、私たち一般市民もリーガルリテラシーを備える必要があるのかもしれません。
民法の中でも特に、人と物との関係を扱う「物権法」を専門とする舟橋先生に、法律の役割やご研究課題についてまた、2014年度、熊谷キャンパスから大崎キャンパスへ移転する法学部の学部長として、学部の展望についてもお話を伺いました。

舟橋教授にお聞きしました!法律が社会に果たす役割とは?

Q1. 私たちの生活に密接な関係のある「民法」とは?

A.人々が共生する社会では、ときに“いさかい”が起こりますが、いさかいの根本的な理由は、大きく分けると「所有」「約束」「謝罪」「家族関係」に絡むものと考えられています。民法は、私たちができる限りこのようないさかいのない“あたりまえの生活”を営むためのルールであり、先代に生きた人々の知恵が詰まっています。
現在の日本の民法は、もとをたどれば、2000年前に制定されたローマ法の延長線上にあるもので、歴史とともに少しずつ形を変え、積み上げられてきましたが、人が創る社会を対象とする以上、根底にあるものは同じです。そして私は中でも特に、人と物との関係をどのように整理するか、といった問題を扱う「物権法」を専門としています。

Q2. ご研究課題の「区分所有の問題」とは?

共著『マンション法』(有斐閣)、『公私領域のガバナンス』(東海大学出版会) 共著『マンション法』(有斐閣)、『公私領域のガバナンス』(東海大学出版会)

A.マンションを購入するとき、皆さんはおそらく“自分の家を買う”、つまり個人の所有物と認識すると思いますが、戸建てと違って共同住宅は、物件を購入したと同時に、屋根、柱、エレベーター、自転車置場などを“他人と共有”するという状態が生じます。個人のものであれば使い方は自由ですが、他人と一緒に使うのであれば、そこにはルールが必要であり、このルールをめぐって様々な問題が起こり得るのです。
特に共同住宅の多い都市部では、近年、老朽化したマンションの維持や管理、建てかえなどについて問題が顕在化しています。1階にテナントが入っている共同住宅で、たとえばテナントが倒産した場合を考えてみましょう。こうした問題にどう対処していくのかが問われています。あるいはマンションをバリアフリー化する工事をするかどうかでも問題は生じます。一般法である民法では、共有物を処分したり変更したりする場合、全員合意が基本ですが、大規模な共同住宅で、住民の全員合意はほぼ不可能です。そこで「区分所有法」という法律で特別なルールを作り、建物の維持や管理が円滑にできるよう工夫されています。
このように、社会の状況に応じて法律を見直し、将来に問題を残さないようにルール作りをすることが法学者の役割であり、私は特に区分所有の問題を研究課題としています。

Q3. ご研究について今後の課題とされていることは?

A.皆さんもご存じのように、日本では土地と建物の所有権が別々です。しかし、ヨーロッパをはじめとした多くの国では、伝統的に土地上の建物は土地の所有権の対象として扱われます。これは、おそらく何百年経っても壊れることのない石造りの建物が多い国々と、木造家屋で地震も多く、建物は壊れるものであることを前提とした、日本の文化や気候風土との違いから生じてきたものでしょう。
このように「人と物との関係」は、即物的に捉えられるものではありません。物はただあるだけでなく、人々の生活や文化との関わり、そして人々の思いがあり、人と物とのつながりは千差万別です。今後は、時代の移り変わりの中で人と物との関係が変化したこと、していないことなども整理し、物権法の体系を単に物理的な側面からだけではなく、人と物、または人と人との関係なども含めて総合的に、他国の例も参照しながら考察していきたいと考えています。

Q4. 法学部の学生が法律を学ぶ意義は?

舟橋ゼミでは原告と被告両方の立場で物を見る力を養っている 舟橋ゼミでは原告と被告両方の立場で物を見る力を養っている

A.“人々があたりまえに暮らせるあたりまえの社会”とは、実は大変得難いものであり、法学を学ぶということは、その“あたりまえ”の裏にどのようなルールがあるのかを考え、社会のしくみを知ることでもあります。つまり、社会を知り、人々が普通に暮らすための知恵を身につけることが、法学を学ぶ意義ではないかと考えています。
また、特に民法は人と人との利害の調整を目的とした法律ですから、民法を使う場合には、自分の側からだけではなく、両方の立場から物を見る力、立場や見方を変えても通用する論理を組み立てていくことが必要です。ゼミでも、原告と被告両方の立場で案件に臨む練習を行っていますが、たとえ将来、直接的に法律を扱う仕事に携わらない学生にとっても、人格形成に役立つ学びではないでしょうか。

Q5. 2014年度、法学部の就学キャンパス移転への展望は?

A.都心の大崎キャンパスへの移転により、よりいっそう活気のある学部になると期待しています。学問の隣接領域である社会科学系の学部と交流を深め、法学部の学生が法学を軸足に置きながら経営や経済の勉強をしたり、反対に他学部の学生が法学を学べるような環境づくりを進めて、学生が幅広く学べる機会を増やします。
また、多くの大学の法学部が、裁判官や弁護士といった「法曹養成」を中心に、ロースクールを備えています。我々は「まちの法律家を育てる」を合言葉に、社会で役立つ実践的な法知識を備えた人材育成を目標にし、個別指導のノウハウを構築してきました。都心キャンパスに移ることで、このノウハウを存分に発揮できるようになると期待しています。

Q6.立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」とご専門分野の関連は?

A.社会で起こる様々な問題を社会の病気とたとえるなら、法律はその病気を治す“薬”です。弁護士や裁判官などの実務家は、訴訟という場でその薬を使って直接病気を治し、法学者は、薬を評価したり、薬の飲み方を助言したり、そして必要であれば新薬を開発する役割を担っています。人々が毎日“あたりまえ”に暮らせる社会を作るために、その“あたりまえ”を支えるしくみをそれぞれの領域で探求すること自体が、ケアロジーであると考えています。

 

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