モラりすレポート

vol.25 社会学の観点から人と社会をケア

2013/05/17

あなたにとって周りの人は“友達”それとも“知り合い”?

自分にとって相手が“何”であるか、関係性を決定づける一般的な定義はありません。けれど、社会で生きる私たちに、他者とのコミュニケーションは不可避です。

「子育てと社会の関わり」について研究し、
他者と関わりながら生きる“人間”を見つめる。

丹治恭子 専任講師

仏教学部 宗学科
丹治恭子 専任講師

筑波大学第二学群人間学類教育学主専攻卒業、同大学大学院博士課程人間総合科学研究科修了後、浜松大学講師を経て、2012年より現職。専門領域は子育ての社会学・教育社会学。日本保育学会『保育学研究』第44巻第2号に論文「幼稚園・保育所の機能拡大と幼保一元化‐機関を対象とした質問紙調査をもとに‐」を、日本子ども社会学会『子ども社会研究』第15号に論文「幼稚園・保育所の「制度的一元化」への志向性‐2000年代における「機能拡大」との関連から‐」を寄せている。

私たちは、育児や介護の在り方、他者との関わり方など、
“正解のない課題”に向き合わなければなりません。

人はみな、他者から生まれ、他者とのつながりの中で成長し、老いていきます。
そして今、私たちがこの社会で共に生きていくために不可避となる育児・看護・介護・介助の在り方は、少子高齢化や女性の社会進出、未婚率や離婚率の増加など、大きく変動する社会状況の中でますます多様化し、混沌としています。これらの課題に正解を見つけることは簡単ではありませんが、社会の一員として真摯に向き合い、自分の考えをもつ必要があるのではないでしょうか。
教育社会学を専門とし、「子育てと社会との関わり」について研究を続ける一方、社会学の観点から「コミュニケーション」に関する講義を担当する丹治先生にお話を伺いました。

丹治先生にお聞きしました!「社会学」の学びから見えることは?

Q1. ご専門の「子育てと社会との関わり」は、どのような研究ですか?

A.大学で、教育を社会学的に分析する「教育社会学」、特に私は乳幼児期の子育てを中心に学びました。現代社会における“子育て”とはどのようなものか、現在の社会状況を反映したうえで“子育て”はどのようにあり得るか、といったことを社会学の観点から研究する領域です。自分自身を振り返っても、乳幼児期の環境や家族の存在は、人格形成に大きな影響を与えていると感じ、“子育て”について深く学びたいと思ったのが始まりでした。
大学院では主に「幼保一元化」という問題を軸に、日本の保育施設について調査・研究を行いました。幼稚園や保育所を対象にした質問紙調査や、園長先生への聞きとり調査を通じて保育施設の現状を把握し、少子化や女性の社会進出など社会の変化によってその役割も多様化していく状況に、施設がどのように対応するかについて考察を行いました。

Q2. “子育て”をめぐる現代社会の課題は?

「共生と希望の教育学」(筑波大学出版会)第10章<「子育ての社会化」をめぐる葛藤>を執筆 「共生と希望の教育学」(筑波大学出版会)第10章<「子育ての社会化」をめぐる葛藤>を執筆

A.子育てにおいて保育施設と両輪となる“家族”の在り方にも着目しています。近年、日本の社会は、一人ひとりが異なる考えのもと、それぞれの生き方を選択する“個人化”や“多様化”が進んでいます。未婚率や離婚率の増加といった数字にも表れている通り、結婚も離婚もみな個人の考えで自由に選択し、家族の形も定まらなくなっています。こういった状況の中で、これまで家族が担っていた“子育て”を、誰がどのように担うかが課題になっています。
社会学において、育児、高齢者の看護や介護、障害者の介助といった“ケア”は「他者に依存的な存在である人間の要求を満たす行為」と定義されます。家族の形が定まっていた高度経済成長期、これらの“ケア”のほとんどは、母・妻・嫁・娘である女性が担っていました。けれど今やこのシステムは崩壊しつつあり、女性たちの悩みは社会全体の課題へと形を変えました。“ケア”の在り方に正解はなく、社会が果たすべき役割についてさまざまに議論されています。

Q3. 社会学の観点から学ぶ“コミュニケーション”とは?

仏教学部1年次生を対象とした“コミュニケーション”についての講義風景 仏教学部1年次生を対象とした“コミュニケーション”についての講義風景

A. 現在大学では、仏教学部の1年次生を対象とした基礎科目を担当しています。2012年度は“コミュニケーション”について講義しました。といっても、いわゆる“コミュニケーションスキル”を身につけるための授業とは位置づけていません。たとえば演習では、実際に友人と話し、その内容を振り返ります。そして“相手は自分をこう見ている”“自分はこういうつもりで話したが、相手はこう思っている”といったその場での気づきをもとに、コミュニケーションの特徴や多様性、可能性を探ってほしいと考えています。
人間は他者と深く関わる生き物であり、社会で生きていくために人とのコミュニケーションは避けられません。そして、多様化する現代社会では、人によってコミュニケーションのとり方もさまざまで、そこには“人となり”が表れます。こう考えると、人とのコミュニケーションは、いつでも“究極の異文化交流”といえるかもしれませんね。

Q4. 社会学の観点から“人との関わり”についてアドバイスをお願いします。

A. 人は一生の中で、多くの人と出会います。私も、毎年学生たちとの出会いがありますが、出会いの場面でいつも心に留めているのは、みな一人ひとり違う人間であるということ。当たり前のようですが、人は無意識のうちに、年齢や職業、育った環境といった情報で、その人をカテゴライズしてしまいます。こういった思い込みや決めつけを排除すれば、人との出会いがより豊かなものになると思うのです。また、一人ひとり違う人間であれば、簡単に分かり合えないのは当然で、そうであるからこそ、分かり合えたときに喜びを感じるのではないでしょうか。そして、もし親しい人とトラブルが起きた場合は、どこに相違点があったのか、お互いに納得のいくまで話し合うことが大切でしょう。こうした人との関わりの中で、私たちは自分を知り、相手を理解する力を身につけていくのだと考えています。

Q5. 仏教学部の学生が、先生のご専門から学ぶことは?

A. 社会学は非常に広がりのある学問で、その定義も千差万別です。さまざまな社会現象について、前提を引っくり返しながら考察していく醍醐味がありますが、そこに正解はなく、あくまでも、各々が思考する際に参考となる知識を提供することが役割であると思っています。
仏教学部の学生が学ぶ仏教は、仏陀が中心となって広まった教えをもとに、人間が生きる意味や世界観について考えるものです。特に宗学科の学生の多くは、将来その教えを伝える立場となるため、宗教を伝えるとはどういうことか、社会における自分の役割は何かについて、考えるきっかけになればと思います。もちろん仏教学科の学生にとっても、社会のさまざまな問題について考え、思考する術を身につけることは意味のあることだと考えています。

Q6.立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」とご専門分野の関連は?

A. 前述の通り、社会学では、育児・介護・看護・介助を“ケア”の一領域と位置づけています。人間は 誰でも“ケア”を受けながら成長し、“ケア”を受けながら老いていくことを思えば、“ケア”の不可欠な人間について社会学的に考えること=ケアロジーではないかと考えます。 また、“ケア”を担う当事者には、多くの苦労や悩みがあると思います。これを軽減し社会全体でシェアするために、さまざまな学問領域から知恵や知識を集結することも、ケアロジーの役割ではないでしょうか。

 

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