モラりすレポート

vol.18 気象の研究で人と社会と環境をケア

2012/06/01

「大気に国境はない。」
地球温暖化やさまざまな大気現象をグローバルな視点から科学する。

地球環境科学部 環境システム学科  渡来 靖 講師

地球環境科学部 環境システム学科
渡来 靖 講師

千葉県生まれ。筑波大学第一学群自然学類卒業。同大学大学院地球科学研究科・地理学水文学専攻単位取得退学。2004年に博士(理学)取得。筑波大学陸域環境研究センター準研究員を経て、2007年立正大学地球環境科学部環境システム学科助手に着任、2010年より現職に。専門分野は気象学・気候学、大気力学。論文に「領域気象モデルを用いた関東地方中央部における2007年8月猛暑の数値実験」など。モットーは“悩むよりまず行動する”“広い視野を持つ”こと。

“気象現象”をキーワードに、地球の成り立ちや
世界とのつながりを改めて考えてみませんか?

猛暑・ゲリラ豪雨・豪雪・竜巻・大洪水。
近年、私たちがこれまでに経験したことのない大気現象が頻繁に起こり、「異常気象」という言葉をよく耳にします。
今、地球は“異常”な状況なのでしょうか?
果たして地球温暖化との関わりは……?
“夕焼けがきれいなら明日は晴れる”など多くの伝承もある通り、昔から人々は天気を気にかけ、言うまでもなく私たちの暮らしは大気現象と密接に関わっています。
熊谷キャンパスで「熊谷の猛暑のメカニズム」を研究する、渡来講師に、気象に関するさまざまなお話を伺いました。

渡来講師にお聞きしました!大気現象の追究で見えることは?

Q1.猛暑や豪雪など異常気象の多い近年。「異常」と言われる現象とは?

A.日本の気象庁では、過去30年間の気象状況の平均値を「平年値」として、気温や降雨量などが、この平年値から大きくずれているときに「異常」気象としています。たとえば2012年6月の平均気温が、平年値より著しく高い(または低い)場合、異常気象となるわけです。異常気象が起こる確率は、およそ30年に一度と見られており、平年値を算出する「30年」の基準は、10年に一度改定されています。

Q2.異常気象は地球温暖化と関係があるのでしょうか?

A.地球温暖化について最新の研究では、地球全体の気温は確実に上がっていますし、数十年後の「平年値」も、現在より上がっていると考えられています。ただ、この点だけが原因で異常気象が起こるとは言い切れません。たとえば、日本は暖かい空気がたまる赤道付近と、冷たい空気がたまる北極との境目に位置しています。このため一年中、高気圧と低気圧が押したり引いたりしているので、その力加減で急に暖かい空気や冷たい空気が入ってくることがあります。これも異常気象の一因です。つまり異常気象は、温暖化の影響が根底にはあるとしても、いくつかの要素が絡み合って起こる現象と考えられます。

Q3.私たちは「地球温暖化」にどう対応するべきですか?

A.夏になると融ける北極の氷、さらに海面の上昇により水没するおそれのあるモルディブなど、地球温暖化が原因とされる環境の変化として近年問題になっていますよね。地球温暖化にはさまざまな考え方がありますが、長い歴史を見れば、地球は太古の昔から何億年もかけ、二酸化炭素を酸素に変えるしくみを作り、生命が暮らせる環境を作ってきたわけです。けれど近代、暮らしを豊かにするための生産活動が盛んになり、二酸化炭素の排出量が増え、非常に短い時間で地球の歩みを逆行しようとしています。多くの生命は急激な環境の変化には耐えられず、絶滅危機の品種も少なくありません。私たちはこの状況を地球規模の視点で考え、現在の状況を作り出した責任を持たなければならないのではないでしょうか。一人ひとりが“意識”を持ち、温暖化ガスを排出しないよう努力したいですね。

Q4.気象学を専門とされたきっかけをお聞かせください。

A.大学の授業で「ブロッキング現象」に興味を抱いたことが現在の研究の始まりです。ブロッキング現象とは、非常に大きな高気圧が、ある一定の場所に居座る現象です。2週間~1カ月の長期にわたることもあり、西から東へ移動している大気に杭を打ったような状態になります。この影響で一定の地域に雨が降り続いたり、干ばつが起きたりするわけです。これも異常気象の原因になりますが、予測しづらい現象であり、未だ解明されていない点が多々あるので研究を続けています。大気は目に見えないものなので、ブロッキング現象をはじめ、気象学には未知の部分が多く、未知であるからこそロマンもある、興味深い研究領域なのです。

ブロッキングの際の天気図。カムチャツカ半島の北にある「H」を中心とした高気圧が、 ブロッキング高気圧(2012年1月20日21時(世界協定時))

Q5.現在のご研究テーマについてお聞かせください。

A.現在は主に立正大学のキャンパスがある熊谷の猛暑のメカニズムを調べています。猛暑に限らず大気現象はさまざまな要素の組み合わせで起こりますが、熊谷の猛暑の場合、大きな要因として特異な地形が挙げられます。日本は海に囲まれていますが、内陸に位置する熊谷は、太平洋まで大きな平野が広がり、北から西にかけては山に囲まれています。こういった地形により、海からの風が一日の暑さのピークを過ぎた頃にようやく到達するなど、地形と風の関係も猛暑の一因です。地球温暖化の影響や都市のヒートアイランド現象なども複雑に絡み合っていますが、熊谷の地形の特徴を詳細に調べたり、観測やシミュレーション解析することで猛暑現象を追究し、熊谷をより住みやすい街にするために貢献したいと考えています。

関東平野北西部の猛暑事例の数値シミュレーション結果(2007年8月16日14時、地上気温と地上風)矢印の地上が影響し、前橋・熊谷周辺の地上気温が高くなっている

熊谷市街地ヒートアイランドのシミュレーション結果(2007年8月17日0時)。太線四角(熊谷市街地中心部)の平均値からの差で示した、地上気温と地上風。熊谷の地上気温は平均値と差がなく、ヒートアイランド

Q6.都市のヒートアイランド現象に関して、私たちができる対策は?

A.ヒートアイランド現象は、大きく分けて3つの原因が考えられます。ひとつは、もともと森や草地だった土地がアスファルトやコンクリートで固められ、地面の性質が変わってしまったことです。ふたつ目は、ビルや家が密集していることで、太陽熱が複雑に反射し、その結果、地面周辺に熱がたまってしまうこと。3つ目は、エアコンの室外機をはじめとした人工排熱によるものです。前者の二点に関しては、社会レベルで都市の在り方を考え、改善していかなければならない問題ですが、人工排熱の問題に関しては、個人の心がけで対策できるのではないでしょうか。

Q7.立正大学で気象学を研究する学生の学びとは?

A.研究室には、ゲリラ豪雨や台風、雷といった身近な大気現象に興味を持っている学生が多いですが、ほかにも“脳卒中と気象条件の関係”や、“交通事故の発生頻度が気象条件によってどう変わるか”など、学生が各自興味を抱いたさまざまなテーマを選んで研究を行っています。いずれにしても、前述した通り猛暑に関して極端事例のある熊谷は、気象学的に見て非常に特色の多い土地です。絶好の研究対象が身近にあるキャンパスで、気象学を学ぶ意味は大変大きなものだと思います。

夏のゼミ合宿は長野にて、山谷風の気象観測夏のゼミ合宿は長野にて、山谷風の気象観測

熊谷キャンパス内での観測施設を使った、ゼミの講義風景 熊谷キャンパス内での観測施設を使った、ゼミの講義風景

Q8.立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」とご専門分野の関連は?

A.たとえば地球温暖化の対策を講じるときでも、まず始めに、現在地球でどのような現象が起きているのか、今後どのようになる可能性があるのか、といったことを科学的知見で調査することから始まります。次に、地球温暖化が私たちの暮らす社会に及ぼす影響を考察し、それらの情報をもとに政策を立てるわけです。立正大学のキャンパスがある熊谷の猛暑対策も然り、どのような問題であれ、まずは今起きている現象の詳しいメカニズムを、科学的な視点から明確にすることが大切です。ケアロジーにも同じ視点が必要であり、自身の専門もその一端を担うものであると考えています。

共著『内陸都市はなぜ暑いか~日本一高温の熊谷から』 共著『内陸都市はなぜ暑いか~日本一高温の熊谷から』

 

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