モラりすレポート

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竹内洋岳『モラリスト×エキスパート』実践塾 竹内洋岳氏が語る「モラリスト×エキスパート」の作り方。

自分の生き様を模索し続ければ
「モラリスト×エキスパート」を実現できる。

今日は現役の立正大生である皆さんと一緒に、大学のブランドビジョンである「モラリスト×エキスパート」について考えてみよう。

私は、何かを継続することによって、人は「モラリスト×エキスパート」になれるのだと思っている。
自分がやりたいこと、好きなことを、ひたすらに続けていくことでそれが達成される。モラリストだけでもなく、エキスパートだけでもない。どちらか一方では人間として不十分。モラリストになる過程でエキスパートになっていく。エキスパートを目指すうちに、おのずとモラリストになるのではないかと思う。

スポーツでも、フィジカルとメンタル、ふたつを分けて考える風潮があるけれど、私は切り分けて考えるものではないと思う。本来一緒のもので、個人のもっている力全部をひっくるめて考えるべきだろう。

「モラリスト×エキスパート」とは、わかりやすくするために、あえて人間の側面を二つに分けて表現した言葉。
モラリストとは何か? エキスパートとはどうすればなれるのか? と分析して考えるのではなく、自分自身がどうやって生きていくのか、その生き様を模索することによって「モラリスト×エキスパート」になれるのだと思う。

立正大生との一問一答

木 村 「8000mの山を登る時、絶対できる! と思う気持ち、
勇気をどうやったら生み出せるのですか?」

竹 内
多分そんなものはないですね。頂上に行く手前なんて、3歩進んだら100mをダッシュしたみたいに、ゼーハーゼーハー……。次はなんとか5歩登ってやろうと思って、頑張って歩く。でも苦しくて5歩登ると吐いてしまう。そういうことを繰り返して、ようやく頂上にたどり着く。そこだけ切り取ってみて、山登りって面白いのかと問われたら、絶対面白くない。楽しくとも何ともない。つらいばっかりだ。極寒、そして極暑…危険がたくさんあるところに、重い荷物を背負わせて登らせるなんて―山登りが嫌いな人にとっては、想像できる拷問の中でもっとも苦しい拷問かもしれない。なぜ私たちはそこにあえて入っていくのか…それはただ単純に好きだから。

そこには他では見られない景色があり、そこでしか出会えない人がいる。終わって帰ってきた時には「次はどこに登ろうか?」と思いをめぐらすほどに楽しい。そこに勇気やモチベーションなんて必要ない。

人間が、一番自分の力を発揮できるのは、好きなことに対してだと思う。好きな登山をつきつめていったからこそ、私は勇気を奮い起こすというような余計なことは不要で、夢中になることができた。人生でそういうものに出会えるかどうかはとても重要だと思う。

小 野 「恐怖心はないんですか?」

竹 内
いい質問だね。恐怖心というのはあるべきです。よく恐怖心を乗り越えるとか、恐怖心を打ち消すとかいうが、私たちは恐怖心を利用して危険を見抜く。恐怖心を乗り越えたり、打ち消すことは、実はすごく危ないこと。高いところに連れていかれて、ヒヤッとするのは、危険を感じるから。危ないからこそ、落ちないように気をつける。
山で事故にあってケガをすると恐怖心は増す。それでも山登りを続けていると、多くの人が「ケガをした恐怖心をどうやって克服したんですか?」と聞く。でも私は事故やケガを経験したことで、恐怖心というセンサーが高性能になったのだと思っている。

恐怖心は自分の身を守るためにとても重要なもの。これからの時代、私たちはそれを磨いていく必要がすごくあると思う。今の時代、今まで想像もしていなかった危険に身をさらされることが増えている。(なんだかわからないけれど怖い)というその怖さは人によってちがう。その感覚をうまく利用できるかどうかは、これからを生きる人間にはとても大事だと思う。

加 藤 「山の魅力とはなんですか?」

竹 内
人間の本質には、好奇心というものがある。行ったことのないところに行ってみたい、見たことのない物を見てみたい、知らないことを知りたい……説明の必要もないくらい基本的なことだ。人によってその好奇心を発揮する場所はちがう。私は山に好奇心を抱いたから山に登っている。

私が山を面白いと思うのは、いろんな人に出会えるから。山というのはもともと地球のでっぱりでしかない。地球儀でいえば、針の先のような小さな場所。その頂上に世界中から人が集まってくる。逆にいえば、山の頂上には人を集める大きな力がある。世界中の好奇心を吸い寄せているのだ。そこに同じ好奇心をもった人たちが集まってくる。その人々に出会えるなんて、これほど面白いことはないと思っている。

私にとっては、山の頂上がひとつのピーク。皆さんにとってのピークはそれぞれだろう。スポーツでいえば世界選手権、そこでもいろんな人に出会える。学術や芸術、ビジネス……いろんなもののピークに向かって、同じ好奇心をもった多種多様の人間が集まってくる。私たちは頂上で待ち合わせをしているのと同じことだ。

池 田 「竹内さんの話はとてもわかりやすくて面白いです。
話す訓練をされたのですか?」

竹 内
してないですね。ただ、ひとつ方法がある。それは本当のことを話すこと。人から聞いたことではなくて、自分が経験したこと、見たこと、感じたことを、人に伝えるしかない。それだけは本当のことだから。
私たちは動物として生まれて、だんだん人間になっていく。でも若い人はまだ動物に近い。動物の感覚に分析力は必要ない。「これは本当かな?」と、みんなは意識してないだけで、うそか本当かをどこかで見抜いている。

大人たちは、つまらない話でも楽しそうに聞いてくれるけど、学生になるとそうはいかない。ちょっと面白くないと、途端につまらない顔になる。感覚で生きているので、自分のためにしゃべっているかどうか、本当じゃないことを話しているとか、見抜いてしまう。だからこちらもほんとうのことを話さないと…。
あなたたちがその大事な感覚をいつまで残していられるかということも、これから大人になるうえで重要になってくると思う。

菅 原 「日本人初の8000m峰全14座の完全登頂という、
すごい記録を打ち立てて、次に計画していることはありますか?」

竹 内
世界ではすでに30人近い人がやっていることで、自分ではすごい記録だとは思ってない。できるとわかっていることをやっているのだから…。日本人がその記録を達成できてなかったということが悔しいと思ったからこそそれを行っただけだ。
むしろ、すごい記録を新たに作ったのではなくて、達成せずに取り残されていた古い記録を片づけただけだと思っている。私のしたことは、新しい登山の世界の扉を開いたのではなくて、古い登山の世界の扉を閉めたようなものだ。
それによって、ここから先、私ではなく、登山というものが、新しい世界に進んでいける可能性が生まれたと思っている。

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