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江崎玲於奈先生 公開講座

 この講演録(要旨)、および江崎玲於奈先生、高村弘毅立正大学学長対談は、2010年1月9日に立正大学にて開催された「立正大学 第90回公開講座 自己実現 ~私の歩んだ道~」(講師:1973年ノーベル物理学賞受賞 江崎玲於奈先生/主催:立正大学/後援:熊谷市 熊谷市教育委員会 熊谷商工会議所/協力:立正大学社会福祉学部 読売新聞東京本社広告局)の内容をまとめたものです。


江崎玲於奈先生講演「自己実現 私の歩んだ道 持って生まれた才能の喚起」
 
 私は昭和戦争の中で育ち、大学生のときに戦争が終わりましたので、死と破壊の戦争という追い詰められた環境の中で、何にプライオリティーをおいて生きるかを問い詰めました。
 
 そうした中で宇宙の真理に通じる普遍的知識を渇望し、確たる理論と実験に基づく自然の本質を探究するチャレンジとしてサイエンスに引き込まれました。
 
 その中でも量子力学より非常に革新的な知識と新鮮な刺激を受け、この新しい分野においてその知識を企業で活用するという人生のシナリオを描きました。
 
 誰もやらなかったことをやるという人生戦略もシナリオのうちの一つです。
 
 大学を卒業した1947年には、世紀の大発明であるトランジスタ半導体が生まれました。そこで私は量子力学を半導体に活用して、エサキ・トンネルダイオードを作りました。これはトランジスタの発明というチャンスの女神が応援してくれたこともありますが、チャンスの女神は準備を整えた人を好むというように、チャンスをつかむには自らの努力・準備も必要です。
 
 サイエンスの真の魅力は、必ずしも知識ではなく、新しいものが生まれる、創造する、その感動です。進歩という動きの中にサイエンスの本質・面白みがあり、その面白さは、発見するプロセス、造りだすプロセスであります。
 
 また、科学は将来を予測できない、しかし技術は将来が予測できる。科学の知識を何かの技術に応用することで役立つわけで、「科学技術」といっても両者は大変違ったものであります。
 
 温故知新という言葉がありますが、サイエンスというのは「未来(研究)を訪ねて指針を得る」ものです。
 
 18世紀の科学の活用から技術が非常に進歩を遂げ、19世紀になると人間の身体能力の限界以上の技術文明を追求し、さらに20世紀になると思考能力の限界に挑戦する情報工学、21世紀は人間の生きる能力の限界に挑戦するゲノム科学・バイオテクノロジーを発展させました。
 
 では今後の20世紀と21世紀前半とでは何が違うか。
 
 一つには平均寿命が延びたことにより、いかに生きるかという心配が大きくなってきた点、また学術・経済の国際化が進み、国際協力も進む一方で国際競争も激化する点が、さらに社会の多様化により、情報量が頭脳の能力を超えてしまい、情報に流されてしまう危険性を孕んでいる点が挙げられます。
 
 人は中核的な問題にとらわれがちで、特にメディアに惑わされて、基幹的な物より付加価値的なものに注意が集まる傾向があります。
 
 われわれの文化の真髄、核心に触れる感動によって初めてわれわれの自己実現は可能になるのです。
 
江崎玲於奈先生 立正大学高村弘毅学長対談
 
高村学長
 先生が成功されるまでの過程では、いろいろと失敗も数多くあったのではないかと思うのですが、諦めることなく果敢に目的に向かって挑戦されたその意欲についてお聞かせいただければ大変ありがたく思います。

江崎先生
 やはりいろいろな抵抗や妨害があり、例えば会社の経営状況が変わり研究に専念できない状況になっても、日本の企業慣習ではそれでは退職とはなかなかいきません。
 
 またやはり言葉の障害は非常に大きいので、なるべく若い時に外国へ行かれる経験を持つことが重要だと思います。
 
 それからアメリカ社会は非常に厳しい競争社会ですが、評価が比較的正当に行われます。このことは社会の発展のために重要なことです。若い人たちはいろいろなことにチャレンジして経験を積むことが、人間の成長には重要であるということを申し上げておきたいと思います。

高村学長
 日本がこれから国際競争力の狭間の中で青年を育てていくには、彼らに何を求めるかということが一番大事だと思います。先生はこの点において、青年にどのようなメッセージをお送りになりますか。

江崎先生
 現代はいろいろな情報が世界を駆け回る時代ですから、できるだけ世界の中で活躍する姿勢が必要です。
 
 それから言葉の問題ですが、言葉と共に文化も違いますので、文化交流も大事です。違うものに会うことは人間が触発される成長の一つの根拠だと私は思いますので、意欲的にいろいろなことを体験し、新しいことを試みることが大事なことです。それには外国語を学ばなくてはなりませんが、やはり現在は英語が国際語ですから、英語を学ぶことは非常に重要だと思います。

高村学長
 これは日本の文化の背景を形成している根底の問題に入りますが、日本の文化的背景に、沢山知っていても出来るだけ抑えてあまりアピールしないという、美的背景がありますが、それでは国際競争力には勝てないという指摘があります。そういう場合を考慮するとどのような点を強化していくべきでしょうか。

江崎先生
 日本では高く評価されても国際的には評価されないことがあります。つまり日本だけで高く評価されるものは本物ではない可能性があることになります。日本の良い文化を大事にすることは重要ですが、国際的なものをしっかりと眺めることも非常に重要です。
 
 またノーベル賞をとるためにしてはいけない五か条があります。一番目は今までの行きがかりにとらわれてはいけない。呪縛やしがらみにとらわれると洞察力が鈍り、創造力が発揮できなくなります。二番目、礼賛し尊敬するのはいいが、のめりこんではいけない。のめりこむと自由奔放がなくなります。三番目は大量の情報を前にして、取捨選択に努め無用なものを抱え込んではいけません。四番目は、自分の主張を貫くためには戦うことを避けてはいけない。最後の五番目はいつまでも若々しい感性、子どものような好奇心を失ってはいけない。もちろんこの五か条はノーベル賞のための必要条件ではなく、単なる十分条件です。

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