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女性を応援する 立正大学のケアロジーカレッジ 気づくたび、新しい自分になっていく。 立正大学ケアロジーカレッジ vol.9 福祉と心理の橋渡しで人と社会をケア

現代の子どもたちと家族が抱える問題点を
家族臨床心理学の立場から研究し、福祉領域に活かす。

立正大学 社会福祉学部 人間福祉学科

村尾泰弘 教授

横浜国立大学教育学部卒業(心理学専攻)、同大学院修士課程修了。家庭裁判所調査官として非行や離婚など家庭問題に携わったのち、本学専任講師を経て現職に。また、臨床心理士としてさまざまな社会福祉活動を続けている。著書に『醜い感情の心理 見たくない自分の克服』(大日本図書)、『家族臨床心理学の基礎』(北樹出版)、『ホームレス暴行死事件から読み解く現代非行 非行臨床心理学入門』(おうふう)などがある。

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痛ましい事件・事故や、大きな災害に巻き込まれたり、
深刻な社会問題であるいじめや虐待を受けた子どもたちは、
トラウマや心の葛藤を抱えながら生きています。
傷ついた子どもたちのために、大人は何ができるでしょうか。

臨床心理士として、心に問題を抱える子どもたちや保護者と関わり、
さまざまな社会福祉活動を続けている村尾先生に、
震災後のトラウマのケアから、いじめや虐待の構造とその対応、
非行を繰り返す子どもの背景に何があるかなど、
幅広い研究領域のお話を伺いました。

村尾教授にお聞きしました!現代の子どもたちと家族が抱える問題点とは?

Q1. 事故や災害にあった子どもが受ける「トラウマ」の症状について教えてください。

A.この度の東日本大震災でも多くの子どもたちがトラウマ(心的外傷)体験をしたと思いますが、1995年の阪神・淡路大震災では、震災後“地震ごっこ”をする子どもたちが見られました。大人からすれば不謹慎な遊びに思えますが、心理学的に考えると、子どもは遊びの場でトラウマ体験を再現することで心の傷を癒している、という見方をすることができます。災害に限らず事故や事件に遭遇したあと、自分の意志とは無関係にトラウマ体験がよみがえる「フラッシュバック」や、頻繁に恐ろしい夢を見る、眠りが浅くなる、窓が風で揺れるなど些細なことで怯える、トラウマ体験に関わることを極度に避ける、それまでできていたことができなくなる、などの症状が見られることがあります。これらはすべて“異常な事態に対する正常な反応”であり、多くの場合、時間が経つにつれて少しずつ軽減されていきます。しかし、症状が後遺症のように残ることもあり、ケースによっては、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と呼ばれる場合もでてきます。

Q2. 「トラウマ」の症状について、特に注視すべきことは?

A.トラウマ体験をした人は、子どもに限らず一般的に恐怖心や怒りなどの感情が生じますが、罪悪感が生じることもしばしばあります。自分を責めるのです。これが第三者には分かりにくい感情なのです。例えば、2005年の福知山線脱線事故での出来事ですが、生存者が、「自分だけが生き残ってしまって申し訳ない」「自分が助かったために隣の席の人が亡くなったのではないか」といった罪悪感を訴えていた光景を目にしました。専門的には「サバイバーズ・ギルト」と呼びますが、トラウマ体験はこういった奇妙な罪悪感を生み出すのです。また、子どもがトラウマ体験をしたときに、子どもの話を聞いた親が動揺し、間接的にトラウマ体験をしてしまうケースがあります。これを「代理受傷」と言いますが、親子で不安を増幅し、その結果、子どもの症状の回復を阻害してしまう原因にもなります。この場合は親と子それぞれの不安をカウンセラーが受け止め、不安を増大させる悪循環を断ち切る必要があるでしょう。親のこころのケアについては見過ごされがちですが、注視すべき点だと思います。

Q3. トラウマ体験をした子どもや大人に対して、どのように接すれば良いでしょうか?

A.いちばん大事なことは、そばにいて静かに見守りながら、彼らの話を聞くことだと思います。「怖い、辛い」と訴えたい気持ちを封じ込めないように、ありのままに受け止めることだと思います。心に傷を受けた子どもも大人も皆「早く立ち直りたい、元の自分に戻りたい」と思っているはずですが、なかなか思うようにいかず、ふだん通りにいかない自分に落ち込んでしまう人もいます。そんなときは、むやみに叱咤激励するのではなく、その人の話に耳を傾け、現在の状況を受け止め、「そんな気持ちになるのは自然なこと」と肯定してあげてください。落ち込んだ人であっても、こころの健康度が高ければ、「頑張ろう」と声をかけてもいいかもしれませんが、症状が重い場合はその言葉がプレッシャーになり、悪化してしまうこともあります。個々の状況を見ながら接し方を考えることも大切ですね。また、どのように接すればよいか分からず、距離をおいてしまう人もいると思います。でも、無理に気のきいた言葉をかけようとする必要はないのです。ただ、その人に寄り添い、温かく話を聞くことから始めてみてください。

東日本大震災で被災された方への支援に日本赤十字社こころのケア班メンバーとして
臨床心理士の活動を行ってきました。

Q4. トラウマの原因にもなり得る「いじめ」や「子ども虐待」についてお聞かせください。

A.いじめと子ども虐待の構造は、実はとてもよく似ています。親が子どもを虐待するとき、子どもは絶対に親に勝てない状況にあり、力関係が歴然としていますね。深刻ないじめも同様で、加害者は常に安全な場所に身をおき、一方的に被害者を攻撃する構造があり、被害者は絶対に勝つことができません。下図のように、崖の上から石を投げる人に対して下から石を投げ返しても、上の人には届きません。いじめと虐待の被害者・加害者の力関係はこの例と同じです。また、昔の弱いものいじめに比べ、現代のいじめにはいくつかの特徴があります。まずひとつは“陰湿”であるということで、仲のいい友達同士を争わせ、その様子を見て楽しむ、といったいじめも見られます。ふたつめは“長期化”しているということで、特定の子どもが数年にわたっていじめられるケースも少なくありません。3つめは、加害者が「あの子がぐずぐずしているから」などの口実で、いじめを“正当化”するということ。そして4つめは被害者・加害者双方がいじめを“隠ぺい”しようとすることです。正当化と隠ぺいに関しては虐待にも見られる特徴で、これらの問題を深刻化させている要因であると言えるでしょう。

いじめの構造

Q5. 「いじめ」や「子ども虐待」の問題に、親や教師はどう対応すべきでしょう?

A.ある父親に「中学2年生の息子が、いじめられていることを告白してきましたが、『いじめくらい自分で解決できなくてどうする』と言ってしまいました」と相談されたことがあります。親としては、たくましく育ってほしいという気持ちから出た言葉だと思いますが、私の立場から見ると“いじめとけんかを混同している点”と、もうひとつ“隠ぺいを促進する対応である点”で、問題があることを指摘せざるを得ません。いじめにあっている子どもは皆、なんとか自分で解決したいと思っているのにままならず、やっとの思いで大人に相談するわけですから、この対応では、子どもは「自分はいじめも解決できない弱い人間だ」とさらに思い詰め、もう二度と相談しようとしなくなってしまいます。つまり隠ぺいを促進してしまうのです。その結果さらに隠ぺいが進み、いじめが悪化するという悪循環を引き起こすのです。虐待についても同じことが言えますが、親や教師は子どものSOSを見逃さず、きちんと話を聞いて受け止め、子どもたちをいかに隠ぺいから解放するかを考えていかなければなりません。

Q6.「いじめ」の加害者側の子どもに、親や教師はどう対応すべき?

A.いじめの形もさまざまなので一概には言えませんが、加害者側も、家族や友人関係、受験に対する過度なプレッシャーなど、こころにストレスを抱えていて、いじめというゆがんだ形で発散をしているケースも少なくありません。この場合、親や教師の立場として、毅然とした厳しい指導を行うことももちろん必要ですが、それだけでは、決していじめはなくなりません。スクールカウンセラーなどの専門家と役割分担しながら、いじめを行った子どものこころの声にも耳を傾け、被害者の子どもと同様、彼らの話をきちんと聞き、受け止めることが必要でしょう。

Q7. 「非行」についてお聞かせください。

A.臨床心理学には「非行臨床」という領域があり、この領域では“非行を重ねる少年少女の心理やその対応”を主に研究しています。NPO法人の神奈川被害者支援センターの副理事長を務めている関係で、犯罪を繰り返す受刑者に被害者の話をする機会もあるのですが、彼らに被害者の話が浸透していかないことを実感することがあります。彼らをみていると、そのこころの中には“社会からつまはじきにされている”といった根強い被害者意識があり、それが災いしていることに気づきます。加害者でありながら被害者意識が強いのです。この被害者意識こそが更生を妨げている原因だと考えています。その背景には、彼らの多くが親から虐待を受けていたり、自分も酷い目にあってきたため、「被害者は不幸だが、自分はもっと不幸だ」といった思いがあり、被害者に対して素直に謝罪の気持ちを抱けないという“不幸の悪循環”があるのです。子どもをめぐるさまざまな問題は、多くの場合、家庭の中から始まります。根本的な解決をはかるには、家族関係を改善していくことなどによって、この悪循環を断ち切ることが重要な鍵となるでしょう。

「犯罪被害者週間」国民のつどい

Q8. 社会福祉学部の学びと、ご専門の臨床心理学との関わりは?

A.前述の非行臨床から司法福祉に関わったり、虐待を受けた子どもが多くいる児童養護施設をよく訪れることから、子ども家庭福祉といった領域とも関係しています。このようなスタンスを活かして、臨床心理学の分野と福祉領域との橋渡しをしながら、社会福祉の将来を担う人材を育成していきたいと考えています。今春から本学の人間福祉学科に導入された「小学校教諭教職課程」では「教育相談」の科目を担当していますが、子どもとの関わりはもちろん、親への対応や、親子関係・家族関係にも目を向ける必要性などについて指導していきたいと思います。

部長を務める立正大学女子軟式野球愛好会(COSMOS)

Q9. 立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」とご専門分野の関連は?

A.私の専門は臨床心理学ですが、「臨床」とは床に臨むと書きます。ベッドに横たわっている人、つまり傷ついている人に寄り添う、と解釈することができます。日本の福祉は制度論が中心になりがちですが、本来はこの言葉の通り、生身の人間をケアする重要性にもっと着目すべきではないでしょうか。目の前に傷ついた人がいるときに、世界に一人しかいないその人を、世界に一人しかいない私が、どのように理解し、支援者として何ができるかを考え続け、実践していくことが、私にとっての「ケアロジー」であると考えています。

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