
HOME > 立正大学について > ブランドビジョン > 研究ビジョン > 立正大学ケアロジーカレッジ vol.4 古生態の分析で地球環境をケア
フィールドワークを重視し、
各地域の問題を正確に把握することで
地球環境の変遷を検証する。
立正大学 地球環境科学部 環境システム学科
米林 仲 教授
理学博士。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。専門分野は古生態学。「過去における植物群落の空間配置の復元」「植物群落と環境の歴史的変遷」「空中飛散花粉の動態」などを研究テーマとし、現在は特に、花粉化石の分析により、湿原の乾燥化問題などに取り組む。
大きな時間の流れの中に立ち、
地球環境が自然に変わりゆく状況を見極めたうえで、
人間の営みとの折り合いを検証することが大切です。
温暖化、酸性雨、砂漠化など、地球環境の悪化が大きな問題になっています。
これらは複雑に絡み合い、発生の原因も多岐にわたります。
型にはまった情報に惑わされることなく、
まず、各地で起きている問題を知ることから始めましょう。
そして、さまざまな観点からアプローチしながら、
人間の暮らしと地球環境の移り変わりについて、じっくりと見つめてみませんか?
- Q1. まず、ご専門の「花粉化石の分析」についてお聞かせください。
A. 花粉の殻は、生物が作り出す物質の中で化石として最も残りやすいもののひとつで、特に、湿原の泥炭や湖の堆積物に多く含まれます。これを採集して分析し、過去の植生や環境の移り変わりを調べる学問領域です。例えば、最終氷期の終わる約1万年前に気候が温暖化し、中国地方から東北地方の日本海側の地域でブナ林が増加しました。その後1000年でブナ林は東北地方をかけ抜け、8000年前には北海道に上陸し、現在の分布北限に到達したのは1000年前頃といわれています。このように、ブナ林は時代とともに北上している、というようなことが、花粉化石の分析によって分かります。また、台地の川が谷を刻むような地域では、上流の小さな谷に泥炭がたまりやすいので花粉化石の分析に適していますが、東京湾岸のある地域では、2000年前頃、それまであった湿地のハンノキがなくなり、かわりにイネが増えてきた、ということが分かりました。このことから、その頃この地域に住み着いた人たちが、ハンノキ林を切って稲作を始めた、という当時の人々の暮らしの様子も推し量ることができます。
花粉化石の例(マツ属)
日本列島におけるブナの移動
- Q2. ご専門の視点から見て、現在危惧されていることは?
A. 現在は主に「湿原の乾燥化」問題について調べています。その原因はさまざまですが、近年のトレッキングの流行で、多くの登山者が木道をはずれて湿原に入り込み、登山靴で踏みつけることによって地面が固まってしまう、ということがあります。その結果、湿原の水の保持能力が失われてしまい、雨が降ってもしみ込まずに流れてしまうのです。泥炭が1cm堆積するのに数十年以上かかることもめずらしくないので、破壊された湿原の回復にはとても長い時間が必要です。湿原がなくなれば、そこでしか育たない植物が失われ、地球上からその植物種が絶滅してしまいかねません。これは、生物多様性の観点から見ても危惧されることです。人々がこういった現状を知ることで、マナーを守ったトレッキングを楽しむことを期待しています。
- Q3. そのほか、現在の地球環境で問題になっていることは?
A.トレッキングをする人々の楽しみのひとつに、高山植物の観賞がありますね。多雪地の山に多いシラネアオイなど、ご存じの方も多いのではないでしょうか。しかし現在、日本の各地で高山植物や原生林が絶滅の危機に瀕しています。その原因は鹿です。各地の山で鹿が増えすぎ、植物を食べてしまうので、高山植物が減ったり森林が更新できなくなっているのです。鹿は芽生えたばかりの下草を食べてしまうため、今ある親木が枯れてしまうと、森林がなくなってしまう恐れがある、ということです。なぜ鹿が増えたかといえば、鹿を食べるオオカミがいなくなってしまったことや、鹿狩りの圧力が減ったこと、伐採跡地で餌が一時的に増えたことなどが原因です。現在、各地で鹿の数を減らすための対策は講じられていますが、農作物の被害もありますし、人間と鹿との共存が大きな課題になっています。
- Q4. 具体的に環境の変化によって絶滅の危機にある植物などは?
A.高山植物以外にも、草地の減少により、かつて身近だったオキナグサなど草地に生える植物の絶滅が危惧されています。草地は人間が働きかけなければ維持できず、放っておくと森林になってしまうのですが、昔は家畜を放牧したり草刈りをすることで草地を維持していました。現在は、ブルドーザーで整地した土地に栄養価の高い外来種の牧草を育て、そこに家畜を放牧するなど、家畜の飼い方が変わってしまいました。その結果、昔のような草地が減少し、そこに生育する植物の存在が脅かされているというわけです。また、川沿いに生えるサクラソウやカワラノギクなども同じです。例えば多摩川では、上流にダムが建設されたため、昔ほど川の水位が変動しなくなってしまったことや、川の流路が変わらなくなってしまったことで、川原の環境が変わり、洪水かく乱に依存するカワラノギクなどの在来植物が減少してしまいました。現在は、河川敷に洪水かく乱が起こりやすい環境を人為的に作り出すなどして、なんとか維持しようとしています。ちなみに、本学熊谷キャンパスの周辺でも明るい草地に生える多くの稀少植物が絶滅してしまいましたが、それでもまだ貴重な自然が残されています。それを図鑑というスタイルで一冊にまとめました。
『立正大学 熊谷キャンパスの植物』
- Q5. 先生が学部長を務められている「地球環境科学部」の特色は?
A.私たちの住む地球には現在、憂うべき問題が山積しています。皆さんもよくご存じの地球温暖化問題、酸性雨、砂漠化、資源問題、人口増加、食糧難などさまざまあり、発生の原因も多岐にわたります。これらの問題を正確に把握し、解決策を講じるためには「人文社会学的手法」と「自然科学的手法」からのアプローチが必要であり、また、情報を分析するための手法を習得する必要があります。本学部はこの点に着目し、人文社会学的側面から学ぶ「地理学科」と自然科学的側面から学ぶ「環境システム学科」を設けています。つまり学部の中で文系と理系が融合している、これは他大学にはない特色であると思います。
- Q6.各学科の特色および学びの内容は?
A.地理学科の特色は、一言でいえば「地域を診る」ということ。世界や日本各地の地域環境や、そこで営まれる人間の活動と環境との関わりなどを把握し、分析することを学びます。一方、環境システム学科は「環境を観る」ということです。地球・地域環境コースと環境管理・情報コースに分かれ、前者では地球的規模から地域的規模までさまざまな環境問題に迫るための、自然科学的な手法を学びます。後者では、環境問題に関わるデータの収集や解析をするための知識を修得します。また、いずれの学科も、高校では学ばなかった分野の基礎的知識を補うカリキュラムも整っています。
- Q7. 特に重視しているカリキュラムは?
A.両学科ともフィールドワークを重視しています。地理学科では、国内外の調査対象地域を決め、地域の自然環境や産業、社会的な特徴を事前に調べ、現地では自然環境の調査をしたり、役所や特色のある企業などを訪問して聞き取り調査などを行います。環境システム学科では、1年生は全員で調査フィールドに行き、地形・地質、水、気象、植生の観察や分析などあらゆる分野の基礎的調査法を修得します。2年生では希望する分野に分かれ、少人数のグループ単位で、3年生からは研究室単位で、徐々に専門を深めたフィールドワークを行います。いずれも、現場から学び、各問題に応じた調査法をしっかりと身に付けられるよう、指導の徹底を図っています。
地理学科のフィールドワーク(広島市)
- Q8. 学生たちの卒業後の進路は?
A.学部の特徴を生かした就職先、ということでいえば、地理学科の場合は地図製作会社や測量会社、鉄道関係、観光関係などが多いですね。環境システム学科の場合は、大学院を修了すれば専門的な職業に就くことができますし、学部の卒業生でも、近頃は一般の企業に環境関連の部署があったり、環境に携わる何らかの活動をしている場合が多いので、どのような進路であっても、大学で身に付けた知識を生かした仕事に就くチャンスが広がっています。
- Q9. 立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」と地球環境科学部の学びとの関連は?
A.地球環境と一言でいっても、さまざまな観点からのアプローチが必要であり、本学部でも、人文地理、自然地理、地学、気象、生物、水文、情報など、学びの分野は多岐にわたっています。各自それぞれの立場から地球をケアする、という形で「ケアロジー(ケア学)」を実践する、ということになると思いますが、総体的にいえば、大きな時間の流れの中で、地球環境が変わりゆく状態とはどういうことかを見極め、その中に人間の営みの影響を客観的に位置づけ、地球環境と人間の生活とをどのように折り合いをつけていくか、といったことを提唱していくことが、我々のすべきことだと考えています。

