
HOME > 立正大学について > ブランドビジョン > 研究ビジョン > 立正大ケアロジーカレッジ vol.1『地域安全マップ』で人と社会をケア
犯人は必ず場所を選ぶ。だから、犯罪が起きやすい場所の特徴に着目した
『地域安全マップ』を作ることで未来の犯罪を予測し、
被害を未然に防ぐ能力を身につけることができます。
立正大学 文学部社会学科
小宮信夫 教授
専攻は犯罪社会学。中央大学法学部卒、ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。法務省、国連アジア極東犯罪防止研修所、法務総合研究所勤務などを経て現職に。著書に『犯罪は「この場所」で起こる』(光文社新書)、『安全・安心の環境づくり』(ぎょうせい)など多数。
犯罪から身を守るために、防犯ブザーを持ったり、護身術を習う前に、
『地域安全マップ』を作ることが有効です。
今、残念なことに、ひったくりや暴行、連れ去り、通り魔など、
凶悪な犯罪が続発しています。
しかも被害者の多くは、女性や子どもたちです。
そんな憎むべき犯罪に対し、あなたは自分で身を守る手段を持っていますか。
今回は、犯罪者が好む「危ない場所」に気づく力をつけることで、犯罪被害を未然に防ぐ『地域安全マップ』についてご紹介します。
これも、人をケアし、社会をケアする、ケアロジー(ケア学)の一環です。
- Q1. 犯罪が起きやすい場所の特徴は?
A.「誰もが入りやすく、誰からも見えにくい」場所であることが大きな特徴です。たとえば下の2つの写真はどこの街にもある普通の光景ですが、いずれも通り魔事件が起きた場所です。まず、どちらも、バス通りからすぐの道なので、車やバイクが「入りやすい(=逃走しやすい)場所」です。しかも、歩道にはガードレールがないので、車やバイクを使う犯罪者が、歩行者のスペースに「入りやすい(=襲いやすい)場所」でもあります。さらに、いずれの犯行現場も、坂道に沿ってそそり立つ住宅の壁と小学校に囲まれているため、「見えにくい(=目撃されにくい)場所」でもあります。
また、落書きが放置されていたり、ゴミや自転車が不法投棄されている場所は、人々が自分の住んでいる地域に関心がないというメッセージになり、心理的に「見えにくい場所」になります。駅前広場やショッピングセンターなども、たくさんの人が行き来しているので「誰もが入りやすく」、人がたくさんいすぎて注意が拡散してしまうことから「(心理的に)誰からも見えにくい」場所になります。
- Q2. 犯罪が起きにくい場所の特徴は?
A.「入りにくく見えやすい」場所です。たとえば、左の写真の公園は安全な公園です。フェンスと低い生垣で囲まれているので、入口以外から入るにはフェンスと生垣を乗り越えなければなりません(入りにくい)。また、周りに民家があり、窓が公園側を向いているので、たくさんの人が公園の中の様子を把握できます(見えやすい)。そのため、犯罪者は、こういう公園が嫌いです。右の駐輪場も安全な駐輪場です。道路側からはもちろん、マンションの各戸の窓からもこの場所がよく見えます。また、きれいな花がたくさん咲いていると、たくさんの歩行者を集めます。花がある場所は、落書きやゴミがある場所と反対で、犯罪者が嫌う「心理的に入りにくい場所」になります。

- Q3. 『地域安全マップ』とは?
- A.地域の中で、犯罪が起こりやすい場所を示した地図です。といっても、誰かが作ったものを印刷し、配布された側はそれを見るだけ、というものではありません。そこに住む子どもたちや住民が自ら地域を歩き、犯罪者が好む危険な場所を探し、手作りするマップです。実際に街を見て、「入りやすく、見えにくい」という物差しに照らして考え、気づく過程が大切です。それによって、景色を見ただけで、そこが犯罪者の好きな場所かどうかを瞬時に見極める“景色を読み解く力(被害防止能力)”が身につきます。また、その活動を通して住民同士のコミュニケーションも盛んになるので、単なる犯罪予防ツールにとどまらず、地域の活性化ツールとしても使えます。
- Q4. 『地域安全マップ』を始めたきっかけは?
A.イギリスに留学したときに、「犯罪機会論」と出会ったことが始まりです。犯罪者を捕まえて罰するだけでは根本的な解決にはならない。不審者を恐れるのではなく、犯罪者に犯罪の機会を与えないことが犯罪防止につながる、という考え方です。2002年、犯罪機会論の講義を受けた学生たちに、「社会調査実習」の授業の中で、犯罪機会論を実践させるため、地域安全マップは考え出されました。広島県三原市での実習でしたが、当初私は、学生たちは街を歩き回ることに飽きるのではないかと思っていました。しかし、学生たちは、飽きるどころか、遊ぶ時間を捨ててまで、地域安全マップづくりに熱中しました。大学生をこんなにも夢中にさせる地域安全マップなら、子どもも楽しみながら取り組めるのではないか。そう感じ、地域安全マップづくりの活動がスタートしたのです。

- Q5. 『地域安全マップ』の活動は?
A.もともと大学生の実習用教材として考案したものなので、現在も大学のゼミやサークルで学生たちに指導しています。一方、小学校でのマップ教室や大人向けの講習会など、全国各地に出かけて地域安全マップづくりの普及に努めています。ゼミやサークルの学生たちが、指導助手として手伝ってくれているのですが、教える立場に立つことで彼らの専門知識も深まり、人間的にも成長するようですね。就職先の企業でマップ教室を企画したり、NPO法人を立ち上げた卒業生もいて、教え子たちとの連携から、地域安全マップづくりが広がっていくのはうれしいことです。
- Q6. 『地域安全マップ』を作る手順は?
A.小学校でのマップ教室は、街に出る前の座学(事前学習)から始まります。その目的は「入りやすい」「見えにくい」という犯罪機会論のキーワードを理解させることです。次に、この二つの基準に基づいて街を点検するために、カメラ持参でフィールドワークを実施します。街の探検を終えたら、模造紙に道路や建物などを描き、次に、現像した写真をはり、最後に、色紙などにコメント(危険な理由や安全な理由など)を書き込み、当てはまる写真のそばにコメントをはり付けます。地図が完成したら、街探検の結果をアピールする発表会を開きます。アピールする相手については、下級生、親、地域住民、役所や警察の人、他校の児童など、多くのバリエーションが考えられます。

- Q7. 『地域安全マップ』の効果は?
A.第一に、一人ひとりの被害防止能力が高まること。危険な場所の特徴を知り、なるべくそこには近づかない、それが無理なら一人では行かない、または十分に警戒する、ということができれば、危険に遭遇する確率は低くなります。
第二に、非行防止能力が高まること。犯罪へと走らせる大きな原因は疎外感です。地域安全マップには、疎外感を薄めることが期待できます。マップには、カラフルなタイトルやかわいいイラストを自由に描かせますが、それは、能力的あるいは性格的にコメントづくりができない子どもにも役割を与え、貢献したという証拠をマップに残すためです。できる子だけでマップづくりをすると、できない子には「君はこのグループに必要ない」「君はこの社会に必要ない」というメッセージになり、その子の疎外感を高めてしまうのです。地域安全マップづくりを通して子どもたちの人間力を高められれば、誰も排除されずに助け合う社会の建設につながっていくと思います。人をケアしながら社会をケアする、社会をケアしながら人をケアする、というケアロジー(ケア学)の理念ですね。- Q8. 今後の活動のご予定は?
A.地域安全マップづくりは、小学校には少しずつ広まっていますが、それでも普及率は2割にも満たず、作り方を間違えたマップが多数出回っています。例えば、犯罪が発生した場所を書く犯罪発生マップ。しかし、過去の出来事を暗記するだけでは、未来の犯罪を予測する能力は高まりません。それから、不審者が出没した場所を書く不審者マップも多く作られています。しかし、見ただけでは分からない不審者を発見せよと、子どもに無理な要求をすると、この世は敵だらけと思わせてしまい、周りの大人を信じられない子どもを増やしてしまいます。こうした状況なので、引き続き地道に、地域での講習会や小学校での教室を行っていきたいと思っています。
また、社会人の方は、犯罪機会論さえ知らない方がほとんどです。そのため、簡単に防げる犯罪も防げていないのが現状です。企業が社内研修などで犯罪機会論の普及に取り組んでくれれば、社員の福利厚生や社会貢献にもつながると思います。
地域安全マップは、欧米の犯罪機会論を日本に普及するために私が考案したものです。したがって、海外では地域安全マップづくりは行われていません。いずれは、地域安全マップを海外進出させて、人-社会-地球を結ぶケアロジーとして、多くの人に活用してもらえるツールに発展させたいと考えています。

