
HOME > 立正大学について > ブランドビジョン > 研究ビジョン > 立正大学ケアロジーカレッジ vol.16 共創の経営理論で人と社会をケア


企業の社会貢献型マーケティングに着目し、
社会と企業のWin-Winの関係構築に取り組む。
経営学部 経営学科
浦野寛子 講師
慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻を卒業後、鉄道会社に入社。新規事業に携わる中で経営学の必要性を痛感、MBAを取得するため休職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程(慶應ビジネススクール)で学ぶ。MBA取得後、鉄道会社に復職し、再び新規事業を手掛ける。その後、鉄道会社を退職し、研究と教育の観点から、実務とアカデミックを融合することを目指し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程で学ぶ。主な研究テーマは、消費者行動論、特に消費者の購買意思決定プロセスに関する認知科学的な研究を行っている。また、ブランド・マネジメントやマーケティング・コミュニケーションにも興味を持って研究している。平成22年より現職。
社会貢献しながら、企業利益を追求できる新時代のマーケティングに着目し、
産学連携の場で実践に取り組んでいます。
多くの企業が、利益追求を図るマーケティングの一環として、さまざまな工夫をこらしたキャンペーンを行っています。
中には、「この企業は、なぜこのようなキャンペーンを行っているのだろう?」
と不思議に感じられるようなキャンペーンもあるのではないでしょうか。
でも、そんなキャンペーンの中にも、しっかりと先を見据えた企業のマーケティング戦略があり、
例えば、ショッピングが社会貢献への扉を開くというケースなど、その手法も時代と共に進化しているのです。
企業での実務経験が豊富で、マーケティング現場の最前線に立つ浦野講師に、
「コーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)」や、現在進行中の産学連携プロジェクトなどについて伺いました。
- Q1. 女性の経営者が増えている今の時代、女性が経営学を学ぶ意義やメリットは?
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A.鉄道会社に勤務した経験や経営学を専門としている立場から、経営の現場には女性ならではの繊細でやさしい視点も必要ではないかと考えています。女性は、家庭と仕事を両立されている方も多いせいか、より消費者に近い目線でお話できるように思います。消費者視点というのは、経営やマーケティングにおいてとても大事なことなので、そういう意味で、経営学は、実は女性に向いているのでは、と思います。
最近の経営学では、消費者視点や顧客視点というポイントが大変重視されています。かつては売り手側の視点、つまり企業視点からの生産・販売活動によって、モノが売れたのですが、現在の成熟社会では、供給が需要を上回っていることが多く、企業は「お客様のニーズ」を捉えなければ、モノが売れなくなっています。つまり、「主人公は、お客様である」として、消費者の視点で考えることが大切になってきているのです。
元来、女性はショッピングが好きですし、男性と比較しても、消費者をよく見ているように思います。他の人がどんなモノを買っているか、何が流行しているかなど、生活実感レベルで、他人の行動にも興味を持っている分、消費者目線のアイデアも出てきやすいのではないでしょうか。 - Q2. 先生がご専門分野と出会い、この道に進もうと思われたきっかけを教えてください。
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A.もともと小説が好きだったので、大学では文学部に在籍していました。しかし、就職活動の時期になっても、自分が将来やりたいことが見つからず、悩んでいました。そのとき唯一興味があったものと言えば、授業で学んでいた中国語で、中国に行けば何か見つかるかも知れないという思いで、突然、中国の大学に留学することを決めました。
留学先の大学は全寮制で、私の部屋は4畳半位の2人部屋。韓国人の10歳程年上の留学生と同室でした。そのルームメイトと初めて顔を合わせた時、たどたどしい中国語で話しかけると、いきなり「中国語がちゃんと話せなければダメ! 一体、あなたは中国になにしに来たの?」と。それから彼女には、その日以来、中国語を教えてもらったり、街を案内してもらったり、すごくお世話になりました。おかげで、留学中に中国語も上達し、バックパッカーで中国シルクロードを巡ったりもしました。この留学で、とても良い人生経験ができたと思います。
大学卒業後に就職した鉄道会社の面接試験では、この中国留学の経験も採用理由のひとつになったようです。そこでの配属先は、新しい世界に積極的に飛び込んでいく性格だと思われたのか、新規事業の部署でした。新規事業は無からのスタートなので、とにかく何でも積極的に動かなければならない、他の部署との折衝もしなければならない仕事でした。しかし、文学部出身の私には、当初、経理・財務に関わることなどほとんどわからず、先輩たちが何を話しているのか理解できない状態でした。そんな時、先輩たちが、経営の専門書などを貸してくれたり、体験談を語ってくれたりして、親身になって相談にのってくれました。私はここで、経営の面白さを知り、情熱的にかつ論理的に仕事をすることの大切さを教わったのです。
それからは、もっと理論的・体系的に経営を学んでみたいと考え、どうしても経営の大学院に進学したいという思いが強くなり、MBAを取得するため、休職を願い出て、ビジネススクールで2年間、経営に携わるさまざまな事を勉強しました。そのときの同級生は、社会人経験のある方がほとんどで、そのような方々と議論をすることは、机上で本を読む以上に、良い勉強になりました。
そして、復職し、再び新規事業に携わりました。ここで、改めて、無から有を創り出すことってなんて難しく、しかし「エキサイティング」なんだろう、と思いました。私は、本当に新規事業が好きだったのですね。
現在は、自身は実務からは一歩退きましたが、今度は教育者・研究者の立場から、将来の経営者を創出していきたいと考えています。会社の礎となる人材を育てることは、今の私にとって、自身が新規事業を立ち上げること以上に、やりがいがある、大きな魅力的な仕事だと考えています。 - Q3. 産学連携の取り組みとして、ご担当のゼミにて、大丸東京店と連携したプロジェクトを進められていると伺いましたが…。
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A.以前、授業で学生たちに「百貨店で買い物しますか?」と質問したら、手を上げる人がほとんどいませんでした。私はこのような状況に驚き、若者層の消費者行動の変化を受けての百貨店業界の今後のあり方について考察するため、慶應義塾大学のビジネススクール時代にご一緒だった、(株)大丸松坂屋百貨店執行役員大丸東京店長の藤野晴由さんに、立正大学との産学連携プロジェクトを提案しました。テーマは「大学生が考える魅力的な百貨店とは?」。大学生がマーケティング理論をふまえた魅力的な百貨店像を提案し、百貨店側が評価(評価が高ければ実践)していこうというものでした。
そして、最初の打合せに伺ったのが、今年の3月11日。東日本大震災が起きた日でした。予期せぬ出来事が起きたことから、私は、テーマ変更を申し出ました。なぜなら、偶発的にも、打合わせの日に震災が起き、また、学生の中には東北出身者もいたことから、復興のために、私たちが、大丸東京店のような「企業」と協力して、「何かできることはないだろうか」と考えたからです。大丸東京店の藤野店長からは、すぐに「一緒に考え、取り組んでいきましょう」と、快諾のお返事を頂けました。
たとえ、小さな一歩でも、このプロジェクトを、日本復興のひとつのステップにしたいという思いが重なり、「がんばろう! 日本」を合言葉に、学生を中心として、現在、この産学連携の取り組みは進められています。
今回のプロジェクトでは、「コーズ・リレーテッド・マーケティング(以下、CRM)」というマーケティングの手法を実践したいと考えています。これは、製品の売上によって得た利益の一部を、社会に貢献する事業を行っているNGOなどの組織に寄付する活動を通して、売上の増加を目指すというマーケティング手法です。社会貢献を企業のマーケティングに積極的に結び付けていこうという考え方ですが、企業の社会的責任を重視したマーケティングの一例ともいえます。
東日本大震災が起き、企業にもさまざまな形での被災地支援が求められています。大丸東京店には、「社会貢献」と共に、企業が存続するために適正な「利潤の追求」という使命もあることから、「社会的責任と収益性の両立」を念頭にプロジェクトに参加していただきたいとお願いしました。
一方、大学側では、理論と実務の融合、つまり学問の世界と実社会との関係性が深化することによる、新たな好循環の創出を目的としています。学生たちには、このプロジェクトを通じて、復興を担う世代としての能力・行動力を身につけてほしいと考えています。プロジェクトは、企画提案から実行に移すまで、まだまだ続きますが、最後までやり遂げ、成果を上げてほしいと思っています。
各グループがまとめたプレゼンテーション用資料
- Q4. 「CRM」や「コーズ・ブランディング」の事例を教えてください。
A.今回の大丸東京店とのプロジェクトで、学生はさまざまな先行事例を集めてきてくれました。私も“なるほど!”と思えるものもありましたのでいくつかご紹介します。
まず、CRMの発端となった会社の事例から、
●「アメリカン・エキスプレスの自由の女神修復キャンペーン」 1983年にアメリカン・エキスプレス社が、カード加入で1ドル、カード利用1回で1セント寄付するというもので、キャンペーン期間中、カードの利用が約30%増え、修繕のための寄付が170万ドルも集まったと言われています。次に、女性をターゲットにした事例から。
●「エイボンの乳がんにさよなら運動」
ピンク・リボンの付いた化粧品や雑貨などエイボン製品の売上の一定割合を寄付するもの。寄付金は、乳がんの医学研究、検査、診断への資金、患者への臨床介護、さらにはガンの早期発見プログラムの実施に使われました。そして、世界的に有名な事例といえば、こちら。
●「ボルヴィックの1L for 10Lプログラム」
ミネラルウォーター1Lの売上に付き、アフリカに清潔で安全な水を10L供給するというもの。ボルヴィックの売上の一部で、ユニセフの活動を支援し、アフリカで飲料水を確保するための井戸づくり、及び10年間に渡るメンテナンスを行う。ボルヴィックは社会貢献を果たしただけでなく、このキャンペーンによって、業界シェア1位をとりました。消費者心理として、水という商品は、各社それほど差があるわけではないため、社会貢献できるならボルヴィックにしよう! と選んだ人が多かったようですね。最後に、学生たちが探してきた事例です。
●「ブックオフのBOOKS TO THE PEOPLE」
本を必要としている海外の子どもたちに本を読める環境を届けるプロジェクト。買取総数量に応じて、開発途上国への教育支援を行うNGO「Room to Read」を通じて、途上国の図書館建設の費用にするというもの。これにより、ブックオフは企業ブランドイメージを向上させることに成功しました。以上、いくつか事例をあげましたが、今回のプロジェクトで集められた先行事例は、多くが“メーカー”のものでした。“小売”の大丸東京店で何ができるかということが一番難しい課題であり、学生たちはいま懸命に取り組んでいます。
- Q5. 大丸東京店との取り組みの中で、ゼミの学生たちはどのように関わってきたのでしょうか?
A.ゼミの目標は「理論と実務の融合」。大丸東京店とのプロジェクトに参加する3年生18人には、自分たちが学んだ経営学を活かしてどのように貢献できるかということを考えてもらうようにしています。マーケティングというのは売れる仕組みづくりであり、それを社会貢献と両立させることは非常に難しいのですが、学生たちは積極的に取り組んでいます。
まず、3グループに分かれて、先程紹介したような日本と世界の先行事例を集めてきました。この取り組みが、4月~7月の4カ月間。
続いて、11月の最終発表までに、大丸東京店というステージを使って何ができるかということを考えていきます。
このプロジェクトは、大丸東京店にとっても、学生にとっても、消費者にとっても、被災地(社会)にとっても、「Win-Win-Win-Win」の関係になることを理想に計画したものです。私たちのプロジェクトで、どのくらいの成果が上がるかはわかりませんが、最終的には、何らかの形で、被災地復興に貢献できたらと考えています。
学生たちには、私が鉄道会社で経験した、「無からつくる難しさ」を知ってほしいと思い、私はほとんど手を出さないようにしています。学生たちは、頻繁にグループで集まって、話し合っているわけですが、このような話し合いの場面では良くも悪くも意見が割れてしまっているようです。そんなときは、あるグループのメンバーが、他のグループのメンバーに相談するなど、グループ間でも助け合っているようです。基本的には、私に安易に相談することなく、自分たちで解決するように言ってあるので、どんなに大変でも、一つひとつ問題を乗り越えているようですね。
質問や意見が飛び交う、ゼミ生の発表風景
こうした活動の中に一人ひとりの喜怒哀楽があり、皆がこのプロジェクトにかける「やる時はやるんだ!」という熱い思いが伝わってきます。
このプロジェクトへの取り組みは、社会に出てからも、ずっと役立っていくはずです。学生によく言っているのは、自分ひとりではどうにもならないことを動かしていけるのが、チームであり、チームワークというのは、難しい分、面白さもあるということ。全員がこんなに真剣に取り組んでいるプロジェクトにどのような結果が出るのか、最終発表会が楽しみです。
ゼミ生の集合写真(3年生は大丸東京店とのプロジェクトに取り組んだ)
- Q6.ご専門の分野と立正大学が提唱する「ケアロジー(ケア学)」との関連について教えてください。
A.私のゼミでの取り組みは、立正大学のブランドビジョンである「モラリスト×エキスパート」と、「ケアロジー(ケア学)」に符合していると思います。
「モラリスト×エキスパート」で考えると、経営学部の学生は、自分を前向きに律しながら、周囲の喜びや痛みを共有できるモラリストであり、経営学のエキスパートであるということになりますよね。今回のプロジェクトでは、「社会貢献と経営学の実践」を目指していますから、まさにブランドビジョンの具現化ということにつながるのではないでしょうか。
また、「ケアロジー」という考え方では、人間と人間、人間と社会、人間と地球という関係性の中で、今後ますます「共感」とか「共創」というキーワードが重要になると思います。消費者、学生、企業、被災地(社会)が関係性を構築し、復興を目指す今回のプロジェクトは、このケアロジーという観点にも合致するものであると捉えています。

